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第三話 名カマ『カマタリ2』 その1

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 半吉はその場で息を潜め、音のした方をまん丸の良く見える複眼できょろりと観察した。

(いたんだミョウ)

 半吉の斜め前、ピンと尖った幅広の草に巨大なグリーンモンスターが出没している。
 巨大なんてもんじゃない。
 半吉の十倍はあろうかという超特大サイズだ。
 左わき腹に十字の古傷があって、なかなか強そうに見える。

(むむ? 腹に十字の傷?)
 何かが一瞬半吉の頭をよぎった気がした。

(まあ、いっかだミョウ)
 半吉はごくりと唾を飲みこんで、お師匠様のところからこっそり拝借した二本のカマをそっと取り出した。

 お師匠様がむかーし使っていたお古のカマの『カマタリ2』だ。
 古いモノなので、お師匠様が今使っている『カマタリ5』とは違い、ぴかぴかに輝く若草色ではなく枯れ草色をしている。
 それにかなり小さい。

 でもグサッと刺せば、ギザギザのカマが暴れる獲物にどんどん食い込み離さない。
 重さも大きさも小柄な半吉にピッタリサイズのカマだ。
 怪力のお師匠様は巨大かつ切れ味抜群の二本の『カマタリ5』を操り、「アチョ~!」と叫びながら、くるくる身体を回転させて獲物をザクザク狩る。
 回るお師匠さまの袖と裾がひらひらたなびく様はとっても美しい。
 お師匠様の狩りは優雅な舞のようなのだ。

 シャクシャク、ばりっばり。

 大きな咀嚼音が響いて、「ハッ」と半吉は我に返った。
 周囲の警戒を解いた超特大グリーンモンスターが近くの草を食べ始めたのだ。

 ばりっばり。シャクシャクシャク。

(け、結構歯が鋭いミョウ。本当にこいつ、肉食じゃないのかミョウ?)

『グリーンモンスターはデカいが草食アルよ』とお師匠様は言っていたけれど、本当に本当の本当だろうか。
 半吉の小さな胸に、不安が濁流のごとく押し寄せる。

(だ、大丈夫だミョウ。なにせ、半吉はお師匠様の一番弟子だミョウ。一番弟子は弟子の中で一番強いんだミョウ)

 いつかお師匠様が取るかもしれない二番弟子よりも、半吉は強いはずなのだ。
 見事この超特大グリーンモンスターを仕留めた暁には、お師匠様になでなでして貰おう。

『半吉。よくやったアル! さすが私の一番弟子アルな。なでなで~。なでなで~』

(ああ、お師匠様、カマタリ5が頭を削って痛いミョウ。でも、幸せだミョウ)
 お師匠様になでなでして貰うことを想像したら、力が漲ってきた。

(よおっし、だミョウ。お師匠様の言っていたことをしっかり思い出すんだミョウ)

『まずは相手に気づかれないように、じりじり距離を縮めるアルよ』

 半吉は昨日のお師匠様の教えのとおりに、周囲の草に身を隠しながら、するするっとグリーンモンスターに近づいていった。
 グリーンモンスターは緑の露で口の周りを汚しながら一心不乱に食事をしていて、半吉に気づいている様子は微塵もない。

(なーんだ。コイツ、案外鈍感なんだミョウ。デカいのは図体だけなんだミョウ)

 それにしてもものすごい食欲。すごくお腹が空いているらしい。
 もしかしたら、このグリーンモンスターも昨日の大雨のせいでご飯が食べられなかったのかもしれない。

 お師匠様と半吉もそうだった。
 特に半吉よりも何倍も大きなお師匠様は、半吉の何倍もお腹を空かせている。
 空腹のせいなのか、昨日のお師匠様はなんだかちょっと様子が変だった。
 何度もお腹をさすって、顔をちょっとゆがめたりしていて。

(きっとお師匠様はお腹がペコペコすぎて苦しいんだミョウ)
 だから一番弟子としては、何としてでもこの超特大グリーンモンスターを仕留めてお師匠様へ持ち帰らなければならない。
(絶対に狩ってやるんだミョウ)と気合を入れ、お師匠様の教えをまた思い出す。


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