虫蟲アドベンチャー ~君の冒険物語~

箕面四季

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第二話 半吉狩りをする

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 大滝の轟轟と流れる音が、寝床の大滝神社から遠く離れたこの狩場まで届いている。

 昨日の断続的な大雨の影響で、狩場はぐちょぐちょした湿地帯になっていた。
 いつもは太陽が地面を白く照り付ける時間までぐーすか寝ているナミハンッミョウの半吉だが、今朝は眠い目をカッと見開き、自慢の羽で石段をぶわんっと一気に下ると深緑色の大鳥居を潜り抜けて狩場へとやってきていた。

 初夏の熱い日差しに照らされた狩場の草原は、地面に泥の沼がいくつも出没していて、誤って足を踏み入れれば最後、ぬかるみに身体ごと引きずり込まれてしまうだろう。

『雨上がりは地盤が緩く、狩りに適さないと言う奴もいるアルが、私に言わせれば、むしろその逆ネ』

 半吉は、お師匠様の教えを頭の中で反芻しながら、狩場の草原にピンピン生えている真っすぐ伸びる草にぴとっと張り付き、緑の茂みに隠れて慎重に獲物を待っていた。

 半吉の全身は、金属的な輝きを帯びた赤色、緑色、青色が混ざり合い、いくつもの白い斑点模様があしらわれている。
 マーブル模様の七宝焼きのように美しいキラキラオシャレファッションは、夏の日差しの下ではキラリと眩い太陽の光と同化して周囲に溶け込んでしまう。
 半吉はかくれんぼの名人なのだ。

 半吉の頭の中では、両袖と両裾がふわんと広がった若草色の中華風戦闘服を着たチョウセンカマッキリのお師匠様が、エメラルドグリーンに輝くつり目をちょっとだけ虚ろにさせながら、意気揚々と喋っていた。
 それは昨日の酔っぱらったお師匠様のお姿だった。

 昨日はいつ降るか知れない悪天候で、さすがのお師匠様も狩りに行けず、酒を飲み飲み、暇つぶしに半吉を相手に管をまいていた。
 酒が入って饒舌になったお師匠様が、気まぐれにカマソルジャーの狩りの仕方を伝授してくれたのはその時のこと。

『足元がぬかるんで身動きが取りにくいのは獲物も同じアル。特に図体のデカいグリーンモンスターのような獲物は簡単には逃げられないアルよ。ゆえに、雨上がりは巨大な獲物を狩るには絶好の日というわけアル』

 ニタリと不敵な笑みを浮かべたお師匠様の顔の真ん中には、三本線の緑色のペイントがすっと引かれている。
 それがまた強そうでカッコいい。

 半吉も草の汁で真似てみたが、すぐに色落ちして上手くいかなかった。
 だから半吉は、少しでもカマソルジャーに似せるべくお師匠様のニタリとした不敵な笑みを練習している。

 不敵な笑みとは、目は鋭いまま口元だけを歪めて笑うお師匠様の笑顔だ。
 この不敵な笑みもまた、真似してみると案外難しい。
 笑っているようで笑っていないようで、やっぱり笑っている? みたいなお師匠様の不敵な笑み。
 あんな風に左右非対称に口を歪めるにはどうしたらいいものか。
 あの難しい不敵な笑みこそ、チョウセンカマッキリの女カマソルジャーの証に違いないと、半吉は確信している。

 口元を歪めるのは難しいので、とりあえず半吉は自慢の黒く大きく真ん丸な瞳をピカリと悪そうに光らせた。

(さて、狩りに集中するのだミョウ)
 ちょっと偉そうに心で言う。

 半吉は現在、昨日お師匠様が伝授してくれたカマソルジャーの狩りを、お師匠様に内緒で実践中なのだ。

(今日こそは、お師匠様もびっくらたまげる獲物を狩ってやるんだミョウ)

 ニタリと不敵な笑みで考えていると。

 ごそり。
 風もないのに草原の葉が揺れた。
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