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エピローグ ようこそ、むし屋へ
優太君の夢
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「おい。ここはたまり場じゃないぞ。もうすぐ営業時間だ。用がないなら部外者は即刻出ていけ」
碧ちゃんにぶつかった腕をさすりながら、イライラと、向尸井さんが言う。
「用、あります!!」
勢いよく叫んだ優太君が、たたっと向尸井さんに駆け寄って「向尸井さん、オレ、将来の夢決めました!」と、元気よく宣言した。
「……そうか良かったな。だが、うちはむしの売買及びその他を取り扱うむし屋だ。それ以上でもそれ以下でもない。つまり、むしのやり取りを終えた後のことに関心は」
「オレ、国際弁護士兼むし屋になるつもりなんで、この店で修業させてください、師匠!!」
「そうか、それは良かっ……今、何て言った?」
向尸井さんの顔がピシッと凍り付く。
「ええとですね、オレの弁護士の父さんが、オオコトダマの一件以後、警察のガサ入れで何にも出なかったクリーンな弁護士って評判になったんです。それで、ちっちゃいですけど、ちゃんとした裁判も受け持つようになって、オレ、興味本位で何度か傍聴に行ったら、案外弁護士かっこいいなーってビビッと来ちゃったんですよね。んで、どうせ弁護士目指すなら、夢はでっかく世界を股に掛ける国際弁護士になることにしたんです。すいません、オオコトダマの蛹の中身取り出すために向尸井さんにいろいろしてもらったのに」
「いや、オレが聞きたいのはそっちじゃなくて」
「優太君、それって本心なんだよね」
ほたるは心配になって思わず口を挟んだ。
「大家さんとか、周りの人に気を遣って弁護士になるとかじゃ」
「ったりめーだよ。これ、オレの本気の本心! まちがいなく、自分で決めた夢!! だから、ちゃんとママのお墓にも、これまでの経緯も含めて報告してきたんだぜ」
ちょっぴり恥ずかしそうに、でも誇らしげにブイサインを繰り出す優太君をほたるはじぃっと観察した。
細いつり目の瞳は、キラキラと濁りなく希望に満ち溢れ輝いている。
まるで、ほたるが子供の頃に出会った優太君のお母さんみたいに。
念のため、向尸井さんにも確認。
「向尸井さん、優太君についていた人口むしってちゃんと封印したんですよね」
「別に封印はしていないが、責任を持って、しかるべき場所に保管している。というか、あんな貴重でビューティフルなむし、オレが雑に扱うわけないだろ」
うっとりと店の奥に視線を這わせる向尸井さんにドン引きしながら、重ねて確認。
「じゃあ、優太君の心がむしに操られてるって可能性は?」
「それはない、安心しろ。それよりオレが聞きたいのはもう一つの夢の方だ」
恐る恐る、といった感じで、向尸井さんが優太君に視線を向けた。
「ああ、それ! 実はオレ、この間の向尸井さんの姿見てむしコンシェルジュってかっけーなって、めちゃくちゃ憧れてたんですけど、なれるわけないかって勝手に諦めてたんです。でも、そこのオオミズアオが、オレにはむし屋になる素質があるって教えてくれました。むし屋協会のテストに合格すればなれるんですよね。オレ、テストとか超得意だし、表向きは国際弁護士、しかしてその実態は、むし屋のむしコンシェルジュって、なんか、マンガの主人公みたいでいいじゃんって、これまたビビビット来て、二つの夢を追いかけることに決めました。つーことで、これからよろしくお願いします!」
碧ちゃんにぶつかった腕をさすりながら、イライラと、向尸井さんが言う。
「用、あります!!」
勢いよく叫んだ優太君が、たたっと向尸井さんに駆け寄って「向尸井さん、オレ、将来の夢決めました!」と、元気よく宣言した。
「……そうか良かったな。だが、うちはむしの売買及びその他を取り扱うむし屋だ。それ以上でもそれ以下でもない。つまり、むしのやり取りを終えた後のことに関心は」
「オレ、国際弁護士兼むし屋になるつもりなんで、この店で修業させてください、師匠!!」
「そうか、それは良かっ……今、何て言った?」
向尸井さんの顔がピシッと凍り付く。
「ええとですね、オレの弁護士の父さんが、オオコトダマの一件以後、警察のガサ入れで何にも出なかったクリーンな弁護士って評判になったんです。それで、ちっちゃいですけど、ちゃんとした裁判も受け持つようになって、オレ、興味本位で何度か傍聴に行ったら、案外弁護士かっこいいなーってビビッと来ちゃったんですよね。んで、どうせ弁護士目指すなら、夢はでっかく世界を股に掛ける国際弁護士になることにしたんです。すいません、オオコトダマの蛹の中身取り出すために向尸井さんにいろいろしてもらったのに」
「いや、オレが聞きたいのはそっちじゃなくて」
「優太君、それって本心なんだよね」
ほたるは心配になって思わず口を挟んだ。
「大家さんとか、周りの人に気を遣って弁護士になるとかじゃ」
「ったりめーだよ。これ、オレの本気の本心! まちがいなく、自分で決めた夢!! だから、ちゃんとママのお墓にも、これまでの経緯も含めて報告してきたんだぜ」
ちょっぴり恥ずかしそうに、でも誇らしげにブイサインを繰り出す優太君をほたるはじぃっと観察した。
細いつり目の瞳は、キラキラと濁りなく希望に満ち溢れ輝いている。
まるで、ほたるが子供の頃に出会った優太君のお母さんみたいに。
念のため、向尸井さんにも確認。
「向尸井さん、優太君についていた人口むしってちゃんと封印したんですよね」
「別に封印はしていないが、責任を持って、しかるべき場所に保管している。というか、あんな貴重でビューティフルなむし、オレが雑に扱うわけないだろ」
うっとりと店の奥に視線を這わせる向尸井さんにドン引きしながら、重ねて確認。
「じゃあ、優太君の心がむしに操られてるって可能性は?」
「それはない、安心しろ。それよりオレが聞きたいのはもう一つの夢の方だ」
恐る恐る、といった感じで、向尸井さんが優太君に視線を向けた。
「ああ、それ! 実はオレ、この間の向尸井さんの姿見てむしコンシェルジュってかっけーなって、めちゃくちゃ憧れてたんですけど、なれるわけないかって勝手に諦めてたんです。でも、そこのオオミズアオが、オレにはむし屋になる素質があるって教えてくれました。むし屋協会のテストに合格すればなれるんですよね。オレ、テストとか超得意だし、表向きは国際弁護士、しかしてその実態は、むし屋のむしコンシェルジュって、なんか、マンガの主人公みたいでいいじゃんって、これまたビビビット来て、二つの夢を追いかけることに決めました。つーことで、これからよろしくお願いします!」
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