ようこそ、むし屋へ2 ~麗しの碧ちゃん&むしコンシェルジュの卵編~

箕面四季

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エピローグ ようこそ、むし屋へ

碧ちゃんの正体

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 一瞬固まったアキアカネさんが、大きな夕焼け色の瞳を大きくして「ぷっ」と、ふき出す。

「死神の次は、見習いアルバイトとは、ほたるちゃんの想像力は面白いね。とすると、若かりし頃の蜻蛉より前から見習いアルバイトとして働いているわけだから、僕は随分と仕事ができないらしい」
「あ!」
 そうだった。
 とんでもない間違いに気づいて赤くなるほたるに、向尸井さんがあきれ果てた顔をする。

「オレがこんな態度のデカい見習いアルバイトを長年雇い続けるわけがないだろう。いや、お前も十分態度がデカいから、そうとも言えないのか」
 一人で言って、一人で考え込んでいる。

「どちらかと言えば、僕はオオミズアオと同じ類のモノかな」
 黒縁丸メガネをずらして、指で涙をぬぐいながら、アキアカネさんが言う。

「碧ちゃんと? それってどういう」 
「僕のこと、呼んだ~?」

 ゴオオオーーー。
 突然、室内で暴風が巻き起こり、竜巻の中から二つの影が現れる。

 一人は、水黄緑色の狩衣に、とろけるようなハニー顔イケメン。
 そしてもう一人は。
「水黄緑の君!と、優太君??」
「よお、ダメほたる」
 片手をあげて、かっこつけた優太君がにぃっと細いつり目を細めて笑った。
 優太君は、鮮やかなピンク色のTシャツを着ていて、そこにはたくさんのG(ゴキブリ)がカサカサとプリントされている。

「少年、そのTシャツはもしや……」
「ほたるちゃん、会いたかったよー」
 山吹色のギザギザコームで前髪を上げた大きな黒目の貴公子が、「邪魔」と向尸井さんの身体をドンっと、突き飛ばし、ほたるをぎゅっと抱きしめる。

「ぐぇ」
 潰れたカエルのような鳴き声で、向尸井さんがいともたやすくよろめいて、もわもわんと、亜熱帯のトロピカルな花々の香りが立ち昇る。

(くらくらする~)
 ピンク色の世界の中で、しめた、とばかりに、妖しく微笑んだ水黄緑の君が、白く華奢な手を、ほたるの頬へと伸ばしてきた。
 その手首をぱしっとつかんだ優太君。

「えい」
「うわぁ~~」
 何が起きたのか、水黄緑の君が、ビタンとひっくり返ってしりもちをついた。

「いったーい」
 ぽん。っと、小さな竜巻が発生し、中から水黄緑のワンピを着た美少女の碧ちゃんが出てきて「何するんだよー」と、お尻をさすさす優太君を睨みつける。

「へっへっ。オレ、最近、市のスポーツ教室で合気道習い始めたんだ」
「この、暴力悪ガキぃ。バチ当ててやる!!」

「やれるもんならやってみ」
「きぃ~~~」
 わいわいやり合う二人は、かなり親しそう。

 大水碧ちゃん。
 つまり、オオミズアオ。

 あれから、ふと思い立って、向尸井さんから借りている昆虫図鑑でチョウとガの仲間を調べてみたら、オオミズアオという碧ちゃんと同姓同名?のガを発見した。

 オオミズアオは、 チョウ目 ・ヤママユガ科に分類される ガ の一種。
 それってチョウなの? ガなの? と、ほたるには疑問だけれど、大型で白に近い薄緑色の翅を持ち、触覚は櫛歯状で『最も美しい蛾』とも称されると書かれていた。
 図鑑の写真を見た瞬間、碧ちゃんだ、と、ほたるはピンと来た。

 英名は『ルナ・モス』

 前に優太君が、碧ちゃんを見ながら、自分の守護神はルナモスだと言ったのは、こういうことだったのか、と、ほたるもやっと得心がいったのだった。
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