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素質ある子

退店

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「さあてとっと!」
 ほたると優太君を両腕で自分の身体に引き寄せて、碧ちゃんが首に巻いていたふわふわの白いストールをふぁさっと引く。
 むんっと、亜熱帯の熟れた花のような芳香がして、碧ちゃんが狩衣姿の水黄緑の君に変身した。

「ひふみ よいむなや こともちろらね
 しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか
 うおえ にさりへて のますあせゑほれけ」

 水黄緑の君のアルトソプラノの声が、むし屋の店内に心地よく響く。
 小川のせせらぎのように、ささやかで滑らかで、よどみない口調。ほたるにはわからない、けれども心に訴えかけるような詠が流れていく。
 最後に、早口で何か小さく呟いた後、水黄緑の君がモフモフの巨大羽扇をふぁさっと振り上げた。

「大原や~てふの出て舞う~朧月~」

 ごう~~~~~っと、竜巻がほたるたちを包む。

「じゃ、まったねー」
 碧ちゃんの口調で水黄緑の君が向尸井さんたちに別れを告げた直後、目も開けられないほどの暴風がほたるたちを襲ったのだった。
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