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ひいじいじの来客
バタフライ効果療法の結末
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「バタフライ効果療法は、確かに当事者には効く。土地むしの持ち主たちも、生業鞍替えの儀式で作った人工の商いむしでうまい汁を吸ったじゃろう。しかし、それらのツケは世代を重ねた子孫に回ってくるんじゃ。人工的に生成した商いむしは、一族がその商いから鞍替えすることを決して許さん。子孫たちはその商いに縛られ、一族の子らは、他の夢を持てなくなる」
「そのようです。夫の家は代々弁護士で、夫も弁護士になりました。でも夫には別の夢があり、弁護士になれと言う両親に反発していたそうです。けれど、大学入試の願書を提出する直前に、突然義父が脳梗塞で倒れ、言語障害が残り、弁護士を続けられなくなったそうです。夫は『お父さんのためにも弁護士になってほしい』と泣きながら義母に懇願され、自分の夢を諦めたと言います。だから、優太には自由な道を歩んでほしいと、夫は願っているのですが……この子が弁護士以外の道を歩もうとすれば、それを阻む何かが起こる。そうですよね」
「ふうむ」
ひいじいじが顎を撫でた。
「むしは本来、自分の特性に合った人に巣くうもんなんじゃ。野生の商いむしは、商いが得意な人につく。そうして人とむしは共生の関係を築いていく。むしは憑いた人間の傍で繁殖するもんで、代々商いが得意な一族になるんじゃが、世代を重ね、商いむしの特性に合わない子孫が生まれれば、むしはおのずと離れていくんじゃ。ところが、人工むしは、自が生息に適した環境を代々子孫に強要し続ける。時には人の脳を操作して、周りの人間を殺してでも、強引に子々孫々に住処を求める。じゃから、人工むし技術は禁忌になった。禁忌になってしばらく経つ。しかし、あんたのように、祖先が人工むしの作成に加担したせいで、苦しむ人たちが未だにおる。加えてバタフライ効果療法は……」
ひいじいじが優太君のお母さんを見た。
「ええ」と、優太君のお母さんが目で答える。
「バタフライ効果療法を持続するために最も重要な条件は、カゲロウ虫と土地むしに関係する血族同士が縁を持たないことです。でも、いつかは出会ってしまうんですよね。私と夫のように」
困ったような微笑を浮かべて、優太君のお母さんは、縁側の先に広がる庭を眺めた。
春の日差しを全身に浴びて、青々と生い茂る雑草の上を、白いモンシロチョウが2匹、じゃれ合いながら飛んでいる。
子供の頃は、遊んでいると思っていた。
でもあれは、求愛行動だ。
子孫を残すために出会い、巡り、ふわふわと踊る春。
「そのようです。夫の家は代々弁護士で、夫も弁護士になりました。でも夫には別の夢があり、弁護士になれと言う両親に反発していたそうです。けれど、大学入試の願書を提出する直前に、突然義父が脳梗塞で倒れ、言語障害が残り、弁護士を続けられなくなったそうです。夫は『お父さんのためにも弁護士になってほしい』と泣きながら義母に懇願され、自分の夢を諦めたと言います。だから、優太には自由な道を歩んでほしいと、夫は願っているのですが……この子が弁護士以外の道を歩もうとすれば、それを阻む何かが起こる。そうですよね」
「ふうむ」
ひいじいじが顎を撫でた。
「むしは本来、自分の特性に合った人に巣くうもんなんじゃ。野生の商いむしは、商いが得意な人につく。そうして人とむしは共生の関係を築いていく。むしは憑いた人間の傍で繁殖するもんで、代々商いが得意な一族になるんじゃが、世代を重ね、商いむしの特性に合わない子孫が生まれれば、むしはおのずと離れていくんじゃ。ところが、人工むしは、自が生息に適した環境を代々子孫に強要し続ける。時には人の脳を操作して、周りの人間を殺してでも、強引に子々孫々に住処を求める。じゃから、人工むし技術は禁忌になった。禁忌になってしばらく経つ。しかし、あんたのように、祖先が人工むしの作成に加担したせいで、苦しむ人たちが未だにおる。加えてバタフライ効果療法は……」
ひいじいじが優太君のお母さんを見た。
「ええ」と、優太君のお母さんが目で答える。
「バタフライ効果療法を持続するために最も重要な条件は、カゲロウ虫と土地むしに関係する血族同士が縁を持たないことです。でも、いつかは出会ってしまうんですよね。私と夫のように」
困ったような微笑を浮かべて、優太君のお母さんは、縁側の先に広がる庭を眺めた。
春の日差しを全身に浴びて、青々と生い茂る雑草の上を、白いモンシロチョウが2匹、じゃれ合いながら飛んでいる。
子供の頃は、遊んでいると思っていた。
でもあれは、求愛行動だ。
子孫を残すために出会い、巡り、ふわふわと踊る春。
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