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ひいじいじの来客

ひいじいじの来客

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 水黄緑の粒子の靄が晴れていく。
 そこは懐かしいひいじいじの部屋だった。

「ひいじいじ……」
 縁側のロッキングチェアに揺られ、愛読書を読んでいたひいじいじが、ふと目を上げる。

「ひいじいじ!」
 思わず声をかけたが、ひいじいじのショボショボの目が捉えていたのは、ほたるではなかった。

 抱っこ紐の中に収まる赤ちゃんをあやして、小刻みに揺れ佇む女の人。
 昔、田んぼのあぜ道で出会った赤ちゃんを連れたお母さん。大家さんちの写真で見た、優太君のお母さんだ。
 ちょっぴり気の強そうな大きな瞳が、ロッキングチェアに腰かけたままのひいじいじを見下ろしている。

「やっぱり、蜻蛉さんにはわかるんですね。私は佐世保優香と申します。この子は佐世保優太です。優太は、生まれた時から神明山のどこかに祀られている人工的に作られた商いむしに引き寄せられています」
 優太君のお母さんは、ふう、と小さく息を吐き、赤ちゃんの優太君の髪をなでた。

「神明山の近くに、神明三家と呼ばれる三つの大地主があります。佐世保家はその大地主のひとつです。神明三家は江戸時代に、緋色の山伏の姿をしたむし屋にそそのかされ、それぞれの土地むしを商いのむしに変換する生業鞍替えの儀式を行っています。タソガレドキの神明山に、神明三家の血族は近づくべからず。というのが、佐世保家の言い伝えだと、義母から聞きました。優太は新生児の頃から、ふと気が付けば、神明山の方角を見ているんです」

 ひいじいじは、愛読書を目の前のローテーブルにおいて、「どっこいしょ」と、ロッキングチェアから立ち上がった。
 ショボショボの目で抱っこ紐の中の赤ちゃんを覗き込み、優太君のお母さんに目を向けた。

「神明山は、むし霊山のひとつじゃな。人工むしが生息するのに適した環境がある。優香さんと言ったか。あんた、もしや、人工の商いむしの外骨格に使ったむしと縁がある家の出かね」

 優太君のお母さんは「そんなことまでわかるんですね」と、瞳を大きくした。

「おっしゃる通りです。私は、商いむしの外骨格に使われたカゲロウ虫を宿していた椿家の女の末裔です」
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