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人工むし
突破口はひいじいじ?
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「そうだねぇ」とアキアカネさんも夕焼け色の瞳で頷いた。
ほたるは難しい顔で並んでいるアキアカネさんと向尸井さんを、見比べた。
悩む顔もイケメンな二人。
芸術系の専門学校に通う学生みたいな出で立ちで、ひょろりとした体型のアキアカネさんは、案外瞬発力があって運動神経がいい。力もある。
逆に、細マッチョで運動神経抜群に見える向尸井さんは、見掛け倒しのようだ。
「お前今、頭の中で失礼なこと考えてただろ」
「え? あはは」
「ダメほたるは、天然で人の心を抉るタイプだな」
向尸井さんの言いつけを守り、ピシッと姿勢正しく座ったまま、優太君がうんうん頷いている。
「僕は、ほたるちゃんのそーゆーとこ、大好き~」
ここぞとばかりに、碧ちゃんがほたるの腕に絡まってきた。
騒がしい光景に「オレの店の品格が」と、またまたため息を吐いた向尸井さん。
「そんなことより、ひいじいじなら知ってたかもってどういうことですか?」
「そんなことってなあ」
「まあまあ」と、向尸井さんをなだめながら、アキアカネさんが、代わりに説明を始めた。
「どうやら蜻蛉は、むし屋とは異なる不思議な技術を持っていたようなんだ。自分の名前の神社を作って、この店と自由に行き来できるようにするなんて芸当は、特級むしコンシェルジュにもできない。むし屋協会も知らないような技術を、どこかで習得していたみたいだね」
「へぇ。ひいじいじが……」
『蜻蛉さんに作ってもらったの』
女の人の声と一緒に、ふわっと、二匹のモンシロチョウがほたるの脳裏でひらひらと遊んだ。
ちりん。と、可愛らしい鈴の音が鳴る。
「あっ!!」
「今度は何だ? お前は本当に騒がしいな。そういうところも蜻蛉にそっくりだ」
金色ピンセットでつまんだ人工むしを気遣いつつ、向尸井さんが苦々しい顔をする。
「あの、あたし。子供の頃にたぶん、優太君のお母さんに会ってます」
「え? オレのマ、母親?」
ほたるはこくこく頷いた。
「赤ちゃんの優太君にも会ったよ! すっごくちっちゃくって、可愛くて……ってそうじゃなくて、えっと」
ああ、国語力の乏しい自分がもどかしい。
「えっと、だから。優太君のお母さんがあたしに、キーホルダーみたいなのを見せてくれて、それが黄金色に透き通った、オオコトダマの蛹にそっくりだったんです。それに、優太君のお母さんが言ってたんです。これは蜻蛉さんに作ってもらった蛹の殻で、いつか、優太君の未来に必要な時が来るかもしれないって」
「お前、それ、今どこにあるかわかるのか?」
向尸井さんが身を乗り出した。
「どこにあるか、は、知らないんですけど」
はあ。
「おそらくそれは、人工むしの外骨格に似た何かかもしれない。が、場所がわからなければ意味がない。やはり、この少年に一旦人工むしを戻して、時間を稼いでいる間にその蛹の殻を探すしか」
「そのキーホルダーみたいなのってぇ~」
碧ちゃんが真っ白いストールのモフモフに手を突っ込み、ごそごそと探っている。
「もしかして、これのこと~?」
ちりん。
空気の淀みを一蹴するような、清らかな鈴の音が、碧ちゃんの手元で鳴り響いた。
「それー!!」
ほたるは思わず叫んだ。
ほたるは難しい顔で並んでいるアキアカネさんと向尸井さんを、見比べた。
悩む顔もイケメンな二人。
芸術系の専門学校に通う学生みたいな出で立ちで、ひょろりとした体型のアキアカネさんは、案外瞬発力があって運動神経がいい。力もある。
逆に、細マッチョで運動神経抜群に見える向尸井さんは、見掛け倒しのようだ。
「お前今、頭の中で失礼なこと考えてただろ」
「え? あはは」
「ダメほたるは、天然で人の心を抉るタイプだな」
向尸井さんの言いつけを守り、ピシッと姿勢正しく座ったまま、優太君がうんうん頷いている。
「僕は、ほたるちゃんのそーゆーとこ、大好き~」
ここぞとばかりに、碧ちゃんがほたるの腕に絡まってきた。
騒がしい光景に「オレの店の品格が」と、またまたため息を吐いた向尸井さん。
「そんなことより、ひいじいじなら知ってたかもってどういうことですか?」
「そんなことってなあ」
「まあまあ」と、向尸井さんをなだめながら、アキアカネさんが、代わりに説明を始めた。
「どうやら蜻蛉は、むし屋とは異なる不思議な技術を持っていたようなんだ。自分の名前の神社を作って、この店と自由に行き来できるようにするなんて芸当は、特級むしコンシェルジュにもできない。むし屋協会も知らないような技術を、どこかで習得していたみたいだね」
「へぇ。ひいじいじが……」
『蜻蛉さんに作ってもらったの』
女の人の声と一緒に、ふわっと、二匹のモンシロチョウがほたるの脳裏でひらひらと遊んだ。
ちりん。と、可愛らしい鈴の音が鳴る。
「あっ!!」
「今度は何だ? お前は本当に騒がしいな。そういうところも蜻蛉にそっくりだ」
金色ピンセットでつまんだ人工むしを気遣いつつ、向尸井さんが苦々しい顔をする。
「あの、あたし。子供の頃にたぶん、優太君のお母さんに会ってます」
「え? オレのマ、母親?」
ほたるはこくこく頷いた。
「赤ちゃんの優太君にも会ったよ! すっごくちっちゃくって、可愛くて……ってそうじゃなくて、えっと」
ああ、国語力の乏しい自分がもどかしい。
「えっと、だから。優太君のお母さんがあたしに、キーホルダーみたいなのを見せてくれて、それが黄金色に透き通った、オオコトダマの蛹にそっくりだったんです。それに、優太君のお母さんが言ってたんです。これは蜻蛉さんに作ってもらった蛹の殻で、いつか、優太君の未来に必要な時が来るかもしれないって」
「お前、それ、今どこにあるかわかるのか?」
向尸井さんが身を乗り出した。
「どこにあるか、は、知らないんですけど」
はあ。
「おそらくそれは、人工むしの外骨格に似た何かかもしれない。が、場所がわからなければ意味がない。やはり、この少年に一旦人工むしを戻して、時間を稼いでいる間にその蛹の殻を探すしか」
「そのキーホルダーみたいなのってぇ~」
碧ちゃんが真っ白いストールのモフモフに手を突っ込み、ごそごそと探っている。
「もしかして、これのこと~?」
ちりん。
空気の淀みを一蹴するような、清らかな鈴の音が、碧ちゃんの手元で鳴り響いた。
「それー!!」
ほたるは思わず叫んだ。
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