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人工むし
むし耐性
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むし屋協会がどうのとか、組織的な犯行が~、とか、なんだか、壮大な話になってきた。
おでこを指で押しながら、向尸井さんたちの話を整理していると「とにかく」と向尸井さんがまた喋り出す。
ああ、整理が追い付かない。
「とにかく、この人工むしがこのまま外気にさらされ続けて、腐敗が進むのはマズい。不幸中の幸いとでもいうべきか、こういったむしが体内に入り込むと、宿主が一番に心を操作されるんだが、君はなんなく自我を保てていたな。おそらく君が昆虫の類を好きで、長年触れてきたおかげで、体内に宿るむしにも強い耐性ができているんだ」
「そうか」と、優太君が小さな目を見開く。
「オレのま、母親が言ってた、虫を制する者は、虫を制すって、昆虫を制する者は、体内に宿るむしも制するって意味だったんだ」
「へえ、君のお母さんはむしに詳しかったんだねぇ」
アキアカネさんが感心したように言って、優太君ににっこり微笑む。
(優太君のお母さんが、むしに詳しかった?)
アキアカネさんの言葉に、ほたるは、なにか引っ掛かりを覚えた。
なんだろう。
(何か、あたし重要なことを知っているような)
「このむしも、あと数時間後には腐敗が始まるだろう。その前に、君の中に戻すのが、今は得策なんだ」
向尸井さんがピンセットごと人工むしを優太君に近づけると、気まぐれに揺れていたカラフルな線のような毛糸のようなものが、一斉に優太君の方へ向きを揃えた。
更に、先端から菌糸みたいなものをスルスル出して、優太君の心臓の辺りに伸ばしていく。
「うわっ!」
椅子ごとのけぞる優太君の方へ、なおも菌糸は伸び続ける。
「この細い糸のようなものは、おそらく人工むしの気管、呼吸器だな。昆虫好きの君なら、セミの羽化を一度は見たことがあるだろう」
うう~、と身体をのけぞらせながら、優太君が頷く。
「は、はい。毎年、公園で捕まえた幼虫を家のカーテンにくっつけて、羽化を観察してます、けど」
「オレもだ。あんなに神秘的でビューティフルな光景はないよな。徐々に殻を破って、頭を下に下げて、さいごはきゅぽんとお尻を抜くんだが、毎度、頭を下げた時に落っこちないかとヒヤヒヤして……じゃなくて、つまり、この細い糸のようなものは、昆虫のセミが羽化するときに、最後までつながっている細く白い糸のようなものと同じだ」
「言われてみれば」
急に興味を持ち始めた優太君が、人工むしの先端から自分に向かって伸びてくる細い糸をしげしげ観察し始めた。
アキアカネさんや碧ちゃんも含めた全員が、わかったような顔をしている。
わかっていないのは……。
おでこを指で押しながら、向尸井さんたちの話を整理していると「とにかく」と向尸井さんがまた喋り出す。
ああ、整理が追い付かない。
「とにかく、この人工むしがこのまま外気にさらされ続けて、腐敗が進むのはマズい。不幸中の幸いとでもいうべきか、こういったむしが体内に入り込むと、宿主が一番に心を操作されるんだが、君はなんなく自我を保てていたな。おそらく君が昆虫の類を好きで、長年触れてきたおかげで、体内に宿るむしにも強い耐性ができているんだ」
「そうか」と、優太君が小さな目を見開く。
「オレのま、母親が言ってた、虫を制する者は、虫を制すって、昆虫を制する者は、体内に宿るむしも制するって意味だったんだ」
「へえ、君のお母さんはむしに詳しかったんだねぇ」
アキアカネさんが感心したように言って、優太君ににっこり微笑む。
(優太君のお母さんが、むしに詳しかった?)
アキアカネさんの言葉に、ほたるは、なにか引っ掛かりを覚えた。
なんだろう。
(何か、あたし重要なことを知っているような)
「このむしも、あと数時間後には腐敗が始まるだろう。その前に、君の中に戻すのが、今は得策なんだ」
向尸井さんがピンセットごと人工むしを優太君に近づけると、気まぐれに揺れていたカラフルな線のような毛糸のようなものが、一斉に優太君の方へ向きを揃えた。
更に、先端から菌糸みたいなものをスルスル出して、優太君の心臓の辺りに伸ばしていく。
「うわっ!」
椅子ごとのけぞる優太君の方へ、なおも菌糸は伸び続ける。
「この細い糸のようなものは、おそらく人工むしの気管、呼吸器だな。昆虫好きの君なら、セミの羽化を一度は見たことがあるだろう」
うう~、と身体をのけぞらせながら、優太君が頷く。
「は、はい。毎年、公園で捕まえた幼虫を家のカーテンにくっつけて、羽化を観察してます、けど」
「オレもだ。あんなに神秘的でビューティフルな光景はないよな。徐々に殻を破って、頭を下に下げて、さいごはきゅぽんとお尻を抜くんだが、毎度、頭を下げた時に落っこちないかとヒヤヒヤして……じゃなくて、つまり、この細い糸のようなものは、昆虫のセミが羽化するときに、最後までつながっている細く白い糸のようなものと同じだ」
「言われてみれば」
急に興味を持ち始めた優太君が、人工むしの先端から自分に向かって伸びてくる細い糸をしげしげ観察し始めた。
アキアカネさんや碧ちゃんも含めた全員が、わかったような顔をしている。
わかっていないのは……。
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