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人工むし

接客はざっくばらんに

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「お客様の変なコトは、この人工むしが引き起こしているものと推測されます。土地むしの状態から、強引にオオコトダマの蛹の中身にされ、長い年月を経た後、ふたたび外に放り出されたことで、人工むしは、自分が何者かわからず、混乱しているのです。萌黄色になり、茜色になり、群青色になり、墨なっては、燃え盛る赤に揺らめく。この色の変化はむしの混迷そのもの。その混迷がお客様の身の回りで変なコトを引き起こしているのでしょう」

「じゃあ、この線のような毛糸のようなもじゃもじゃ揺れる人工むしを取ったら、優太君の身の回りで起きている変なこともなくなるってことですか? 向尸井さん」
「いや、それがそう簡単にはいかな……って、見習いアルバイトが口を挟むな!」

「もうそういうのいいじゃないですか。てゆーか、優太君には、向尸井さんのダサい私服姿とか、傲慢な姿とかバレバレなんだし、碧ちゃんもアキアカネさんもいないことにするには、存在感ありまくりですよ。この際ざっくばらんに行きましょうよ~。優太君、あたしたちがいても気にしないよね?」

「え、まあ。オレは別に……かまわない、けど」
 優太君が上目遣いに向尸井さんをちらちら見る。

「ダサい私服姿って何のことだ?」
「あ、なんでもないでーす」
 あっははーと笑うほたるを見て「はあ~」と、向尸井さんが諦めのため息を吐いた。
「蜻蛉の子孫を雇ったオレがバカだった」
 くっく。と、アキアカネさんがおかしそうに笑って、向尸井さんの肩をぽんぽん叩く。

「そういえば、蜻蛉もむし屋の流儀をひっかきまわすのが得意だったよね。客商売は和気あいあいが一番じゃってね。蜻蛉がいると、身なりの良い神経質そうな紳士のお客様と何故か相撲大会になっちゃったり、人見知りで口数の少ないご婦人が三時間もおしゃべりしつづけたりして、退屈しなかったよ」
「おかげでむし屋協会が発行する、品位あるむし屋ランキングの上位からこの店が消えた」
 苦々しい表情の向尸井さん。

「へえ~。ひいじいじが……あたしが知ってるひいじいじは、部屋にこもって本ばっか読んでて、家族からは、人に興味ないとか言われてたのに」

「ほたるちゃんの記憶の中の蜻蛉は、晩年の蜻蛉だろう? 青年期と老齢期の性格が同じ性格の人間はいないさ。チョウやガのように、幼虫から蛹を経て羽を持つ形へと目に見えて変化しなくとも、生きとし生けるものは、年月を経るにつれ変化していくものだよ。良くも悪くもね」

 そうかもしれない。
 まだ二十歳に満たないほたるの人生を顧りみても、小学生のほたると今のほたるは、見た目も性格もだいぶ違う。
 良い方に変わった、と、信じたい。

「話を戻すが、この人工むしは、むしむし交換の対象外だ」
 執事風の丁寧な接客を諦めた向尸井さんが、ため息交じりに優太君に告げた。
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