64 / 97
むしコンシェルジュの業務
カフェ店員の気分
しおりを挟む
「あ、あれ?」
ほたるは関係者専用通路の扉の前に立っていた。
「ほたるちゃん、お帰り~。大丈夫だった? アイツになんかされなかったぁ?」
碧ちゃんが、飛びつくようにほたるの腕に絡まってきて、ぐらりと身体が揺れたほたるは危うくお盆を落としそうになる。
「うわ」
「おっと、ごめんごめんー」
パッと、碧ちゃんが手を離す。反動で「うわ」と、再び体勢を崩しかけたほたる。
てんてててん。と、数歩歩きながら必死にバランスを取って、なんとかこぼさずに済んだ。
「盆踊りを踊っていないで、お客様にさっさとお茶をお出ししてくださいね」
美麗の樹の年輪テーブルの椅子に座ったまま、向尸井さんが言う。
「はいはーい!」と、ほたるは優太君の席へ。
「お待たせしました~」と、青空色のマグカップを年輪テーブルの上に置いた。
オシャレなカフェで働いている気分で、ちょっと楽しい。
「つか、ダメほたるって、ここの店員だったの?」
つり目を丸くする優太君に「まあね~」とほたるはドヤ顔をした。もしかして、ちょっと見直された?
「ただの見習いアルバイトです」
即座に訂正した向尸井さんが、ジロリと冷たい目をほたるに向けた。
(この店の雰囲気にふさわしくない接客はやめろ)
と、目が言っている。
でも、お仕事モードの時は、毒舌を封印しているみたい。
特級むしコンシェルジュの接客マナーなのかな。
(しめしめ)
ほくそ笑むほたるに、向尸井さんがピクリと片眉を上げている。
「かりんとう食べ過ぎて、ちょうど喉が渇いてたとこだったんだよなー。これ、ミルクティ?」
青空色のマグカップを覗き込む優太君に「豆乳甘茶ラテでーす!」と、ほたるは明るく答えた。
また向尸井さんがジロリと睨んでくる。それを知らんぷりでやり過ごす。
「……」
やっぱり、お小言は言われない。
思った通り。と、ほたるは、ほくそ笑んだ。
「なんだこれ! 飲んだことない味だけど、甘くてめちゃくちゃうまーい。熱さもちょうどいいし」
ふうふうしながら、マグカップに口をつけて、ごくりと豆乳甘茶ラテを飲んだ優太君がぱあ~っと、顔を輝かせた。そのまま、ごくん、ごくんと、マグカップを傾けていく。
「ぷはぁ! ごちそうさま~! うまかった~」
「本当? やった!!」
空っぽになった青空色のマグカップに、思わずほたるはガッツポーズ!
これで優太君は、むしを取り出すために適切で適量の甘茶を飲んだことになる。
達成感がむくむくとこみあがり、ああ、これが仕事の喜びというやつかと、ほたるは感動に胸を震わせる。ほぼ何もしてないけど。
「ねえねえ、優太君、どんな風に美味しかった? どういうところが美味しかった?」
「ごっほん!!」
強い咳払いに、ニヤニヤしながら向尸井さんを見たほたるは、ハッと口をつぐんだ。
ギロリン!!
人殺しのような目が、ほたるを射抜いている。
(こ、怖い)
さすがにやりすぎたかも。
ほたるは関係者専用通路の扉の前に立っていた。
「ほたるちゃん、お帰り~。大丈夫だった? アイツになんかされなかったぁ?」
碧ちゃんが、飛びつくようにほたるの腕に絡まってきて、ぐらりと身体が揺れたほたるは危うくお盆を落としそうになる。
「うわ」
「おっと、ごめんごめんー」
パッと、碧ちゃんが手を離す。反動で「うわ」と、再び体勢を崩しかけたほたる。
てんてててん。と、数歩歩きながら必死にバランスを取って、なんとかこぼさずに済んだ。
「盆踊りを踊っていないで、お客様にさっさとお茶をお出ししてくださいね」
美麗の樹の年輪テーブルの椅子に座ったまま、向尸井さんが言う。
「はいはーい!」と、ほたるは優太君の席へ。
「お待たせしました~」と、青空色のマグカップを年輪テーブルの上に置いた。
オシャレなカフェで働いている気分で、ちょっと楽しい。
「つか、ダメほたるって、ここの店員だったの?」
つり目を丸くする優太君に「まあね~」とほたるはドヤ顔をした。もしかして、ちょっと見直された?
「ただの見習いアルバイトです」
即座に訂正した向尸井さんが、ジロリと冷たい目をほたるに向けた。
(この店の雰囲気にふさわしくない接客はやめろ)
と、目が言っている。
でも、お仕事モードの時は、毒舌を封印しているみたい。
特級むしコンシェルジュの接客マナーなのかな。
(しめしめ)
ほくそ笑むほたるに、向尸井さんがピクリと片眉を上げている。
「かりんとう食べ過ぎて、ちょうど喉が渇いてたとこだったんだよなー。これ、ミルクティ?」
青空色のマグカップを覗き込む優太君に「豆乳甘茶ラテでーす!」と、ほたるは明るく答えた。
また向尸井さんがジロリと睨んでくる。それを知らんぷりでやり過ごす。
「……」
やっぱり、お小言は言われない。
思った通り。と、ほたるは、ほくそ笑んだ。
「なんだこれ! 飲んだことない味だけど、甘くてめちゃくちゃうまーい。熱さもちょうどいいし」
ふうふうしながら、マグカップに口をつけて、ごくりと豆乳甘茶ラテを飲んだ優太君がぱあ~っと、顔を輝かせた。そのまま、ごくん、ごくんと、マグカップを傾けていく。
「ぷはぁ! ごちそうさま~! うまかった~」
「本当? やった!!」
空っぽになった青空色のマグカップに、思わずほたるはガッツポーズ!
これで優太君は、むしを取り出すために適切で適量の甘茶を飲んだことになる。
達成感がむくむくとこみあがり、ああ、これが仕事の喜びというやつかと、ほたるは感動に胸を震わせる。ほぼ何もしてないけど。
「ねえねえ、優太君、どんな風に美味しかった? どういうところが美味しかった?」
「ごっほん!!」
強い咳払いに、ニヤニヤしながら向尸井さんを見たほたるは、ハッと口をつぐんだ。
ギロリン!!
人殺しのような目が、ほたるを射抜いている。
(こ、怖い)
さすがにやりすぎたかも。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
上杉山御剣は躊躇しない
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
【第11回ネット小説大賞 一次選考通過作品】
新潟県は長岡市に住む青年、鬼ヶ島勇次はとある理由から妖を絶やす為の組織、妖絶講への入隊を志願する。
人の言葉を自由に操る不思議な黒猫に導かれるまま、山の中を進んでいく勇次。そこで黒猫から勇次に告げられたのはあまりにも衝撃的な事実だった!
勇次は凄腕の女剣士であり妖絶士である上杉山御剣ら個性の塊でしかない仲間たちとともに、妖退治の任務に臨む。
無双かつ爽快で華麗な息もつかせぬ剣戟アクション活劇、ここに開幕!
※第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。
俺がロボットに乗って活躍するぜ!
けろよん
キャラ文芸
現代の日本に人々の生活を脅かす存在が現れた。怪獣だ。
奴らは災害を撒き散らす者という意味を込めて災獣ディザスターと呼ばれるようになった。
青年隼人は博士の造ったロボットに乗って自分が戦うのだと信じてトレーニングを続けてきた。
だが、ロボットのパイロットに選ばれたのは年端もいかない少女だった。
納得のいかない答えを跳ねのけるには現実を教えてやるしかない。
隼人は仕方なくパイロットに選ばれたその少女を迎えに行くことにする。
果たして隼人は活躍できるのだろうか。
幼馴染はとても病院嫌い!
ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。
虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手
氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。
佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。
病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない
家は病院とつながっている。
ブルーナイトディスティニー
竹井ゴールド
キャラ文芸
高2の春休み、露図柚子太は部活帰りに日暮れの下校路を歩いていると、青色のフィルターが掛かった無人の世界に迷い込む。
そして変なロボに追われる中、空から降りてきた女戦闘員に助けられ、ナノマシンを体内に注入されて未来の代理戦争に巻き込まれるのだった。
ぱんだ喫茶店へようこそ ~パンダ店長はいつもモフモフです~
和賀ミヲナ
キャラ文芸
プロポーズ間近と思っていた彼氏から衝撃的な言葉を告げられた女性が傷心のなか歩く道にふと現れた不思議な喫茶店。
その名は「ぱんだ喫茶店」
パンダ店長と呼ばれた人は何とも不思議な容姿をしているし、アルバイト店員も美少年?美少女なの?性別不明な子もいれば、
ヤクザ顔負けのコワモテな店員もいるし…
なんだかバラエティーに富んだ不思議なお店。
その不思議なお店の店員たちと織り成す少しだけ愉快で不思議な物語です。
言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー
三坂しほ
キャラ文芸
両親を亡くし、たった一人の兄と二人暮らしをしている椎名巫寿(15)は、高校受験の日、兄・祝寿が何者かに襲われて意識不明の重体になったことを知らされる。
病院へ駆け付けた帰り道、巫寿も背後から迫り来る何かに気がつく。
二人を狙ったのは、妖と呼ばれる異形であった。
「私の娘に、近付くな。」
妖に襲われた巫寿を助けたのは、後見人を名乗る男。
「もし巫寿が本当に、自分の身に何が起きたのか知りたいと思うのなら、神役修詞高等学校へ行くべきだ。巫寿の兄さんや父さん母さんが学んだ場所だ」
神役修詞高等学校、そこは神役────神社に仕える巫女神主を育てる学校だった。
「ここはね、ちょっと不思議な力がある子供たちを、神主と巫女に育てるちょっと不思議な学校だよ。あはは、面白いよね〜」
そこで出会う新しい仲間たち。
そして巫寿は自分の運命について知ることとなる────。
学園ファンタジーいざ開幕。
▼参考文献
菅田正昭『面白いほどよくわかる 神道のすべて』日本文芸社
大宮司郎『古神道行法秘伝』ビイングネットプレス
櫻井治男『神社入門』幻冬舎
仙岳坊那沙『呪い完全マニュアル』国書刊行会
豊嶋泰國『憑物呪法全書』原書房
豊嶋泰國『日本呪術全書』原書房
西牟田崇生『平成新編 祝詞事典 (増補改訂版)』戎光祥出版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる