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見習いほたるの初仕事

アマチャポットの棚

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「ここが、アマチャポットの棚だよ」
「うわぁ~」
 いきなり、視界がカラフルになった。
 その棚には、世界各国の色鮮やかで個性的な形のティーポットが並んでいた。
 溶けかかった氷のように透き通ったクリスタルのティーポット、鮮やかなパステルカラーの丸みを帯びた北欧製のポット、中世ヨーロッパの貴族が使っていそうな(ほたるの想像だが)銀色に輝くポット、イギリス王室御用達風の花柄模様が上品なティーポット、実家にありそうな純和風の急須もある。
 その他、アジア系のポットにごつごつ重たそうな南部鉄器のポットと、とにかく種類が豊富だ。

「ほたるちゃん、このアマチャ瓶を持っていてくれるかい?」
 アキアカネさんが、ほたるにNo.252-13-Tのアマチャ瓶を手渡して、アマチャポットの棚の中段の隅に置かれた木のスプーンを手に取った。
 これも美麗の樹で作られたスプーンかな、とほたるは思う。

「毒と薬は紙一重。濃すぎる甘茶は胸やけや吐き気などの中毒症状を引き起こすことがあるから注意が必要なんだ。うちの場合は、この特殊な木のスプーン一杯を、アマチャ専用ポットに入れて煮だすんだ。ポットの容量や煮出す時間で、濃度や量を調整するんだよ」
「へえ~」
(なんだか難しそう)
「慣れれば簡単さ。特にほたるちゃんならね」
 アキアカネさんが、ほたるの心の中を読んだようにウィンクをした。それから、アマチャポットの棚を上から順番に指でなぞっていく。

「ここに並ぶアマチャポットも木のスプーンも全て、むし道具屋の特注品だよ。今回向尸井君が指定したのは……、ああ、これだ」
 こぶりなポットたちの中から、黒い南部鉄器をことりと手に取る。

「それって、さっき向尸井さんが言ってた黒鉄器3号ですか?」
「そのとおり。ほたるちゃんはのみ込みが早そうだ」
「えへっ、そうですかぁ?」
 アキアカネさんに褒められて(もしやあたしもむしコンシェルジュ目指せちゃったりして?)と調子に乗るほたるに、アキアカネさんがにっこり言った。

「茶葉はともかく、アマチャポットは全部覚えなくちゃならないから、頑張ってね」
「え……」
 巨大な木の棚のてっぺんから足元まで、ざざっと並ぶ、サイズも種類も異なるアマチャポットを眺める。

「これ、全部ですか??」
「いいや」と、アキアカネさんが訂正。

「この棚の裏の棚もアマチャポットの棚だよ」
「……」
 黙りこくったほたるを見て、おかしそうに笑いながら、アキアカネさんが言った。
「これで道具は揃った。外に出ようか」
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