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神明三家の昔ばなし

生業鞍替えの儀式

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 神明三家の当主たちが、むし屋の言葉に従い横一列に並ぶと、むし屋は、緋色の鈴懸の中からあの透明で大きなオオコトダマの蛹の入れ物を三つ取り出した。

『大原や~、てふの出て舞う~朧月~』

 若葉が芽吹くような瑞々しさでむし屋が、詠う。
 するとどうじゃ、オオコトダマの蛹の入れ物は、すーっと宙を飛び、祠の屋根のひさしに飾りのようにぶら下がったではないか。
 ごくりと息をのむ神明三家の当主たちの背後で、むし屋が言った。

「では、お三方。眼を閉じて、鞍替えなさりたい仕事を頭に描き、唱え続けてくださいまし。一度唱え始めたら、わたくしが止めと言うまで、決して止めてはなりませぬ」

 いの一番に、ブツブツと唱えだしたのは花岡の当主じゃ。
「お匙……医者先生、医者先生、医者先生、医者先生、医者先生……」
 村山の当主も慌てて目を閉じる。
「お役人になりてぇ、お役人になりてぇ、お役人になりてぇ……」
 二人に遅れて慌てふためいた佐世保家の当主もぎゅっと目を閉じ唱えた。
「公事師、公事師、公事師、公事師……」

 ……ほたるちゃんのために補足すると、公事師は、訴訟の代行を生業とした人たちのことで、日本の弁護士制度の源流になったとも言われている職業だよー。

 神明三家の当主たちは、熱心に唱え続けた。そのうちに、体の中の血がじわりと熱を持つような感覚に襲われ、三人の額に汗がじっとりにじんできおった。
 ほわほわと、湯気のようなものが身体から立ち昇り、祠の方へすう~っと吸い込まれていくような、不思議な感覚に襲われる。

 その上、なりたい仕事を口に出し、念仏のように唱え続けるうちに、単に儲かるだろうと決めた仕事が、まるで天職のように思えてきたのじゃ。
 何が何でも、この仕事につかなければならない。どんな犠牲を払っても、この仕事を子々孫々に受け継ぎ、世襲していかなければならないと、使命感のようなものが三人の当主たちの胸の内から、みなぎってくる。

「お三方、止め。目を開けてくださいまし」
 背後からむし屋にまろやかな声をかけられ、当主たちが、そうっと目を開けた時、いつしか、山は闇に染まり、赤い満月が不吉な月明かりを灯しておった。

「これは……」
「蛹が、小判のように金ぴかに輝いておる」
「なんと面妖な」
 なんとも不思議なことに、祠にごろりとぶら下がったオオコトダマの蛹は、赤い月明かりを受けて、黄金色に輝いていたのじゃ。
 三つの蛹に見惚れる当主たちの後ろで、むし屋がよく通る声で言った。

「これにて、生業鞍替えの儀式は終了にございます。近々、皆様方の願いは叶うでしょう。ただし、約束が一つ。これより先、タソガレドキの神明山には神明三家の血族を決して近づけてはなりませぬ。むしは生き物。扱い方を誤れば何が起こるかむし屋にもわかりませぬゆえ、決して約束を違えぬよう、ゆめゆめお気を付け下さいまし」

「むし屋殿、それはどういう……」
 神明三家の当主たちが後ろを振り返った時、そこにむし屋の姿はなかったそうじゃ。
 おやと、怪訝に思い、祠に向き直れば、目の前の祠も消えていたそうな。
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