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神明三家の昔ばなし

オオコトダマを祀る条件

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「うわぁ~、神明三家の人たち、ガメツイ!」
 思わず言ってしまった後、ジロリと優太君に睨まれたほたるは、慌てて口にチャックをした。

 うほん。あ、あーと、碧ちゃんが、喉の調子を整えて「続き行くよー」と言う。
 それにしても碧ちゃん、昔ばなしが上手い。
 登場人物の会話とか、なりきり加減がすごすぎて、引き込まれる。
 子供の頃、地元の広場にたまにやってきてた、紙芝居のおじさんみたいだ。
 あのおじさん、元気かな、と考えながら、ほたるは碧ちゃんの話に耳を傾けた。 


 我先にと、むしを欲しがる神明三家を見回し、むし屋は告げた。
「では、お三方ともお買い上げということで、十日後の夕刻、儀式を執り行うこととしましょう。ご当主の方々には、それまでに、オオコトダマの蛹を祀るための祠をひとつお造りいただきたく存じます」

「なに、祠とな」
「大きさはどの程度じゃ」
「ひとりにひとつずついるのか?」

「祠は、お三方でお一つ、このくらいの、小さなもので構いません。それから、儀式までに鞍替えしたい商売をお一つずつ、お決めくださいませ」

「わしはお匙じゃ。言ったもん勝ちじゃからな。マネはするなよ」
「ふん、お匙よりも儲かる仕事はいくらでもあるわい。安易に決めて吠え面をかいても知らんぞ」
「わしは儲かるだけじゃのうて、皆から敬われる仕事に就くがな」
「なんじゃと、わしだって」
 神明三家の当主たちが、ああだこうだと争い合っている間に、緋色の山伏のむし屋は、忽然と消えていたのじゃった。

 そうして、十日が過ぎた。
 大きな夕日が傾きかけた夕刻、約束通り緋色の山伏装束のむし屋が、再び寄り合い所を訪ねてきた。

「祠は、これでよかろうか?」
 こども神輿程の大きさの祠を見たむし屋は「結構でございます。では、さっそく、神明山へ運びましょう」と、紅を引いた切れ長の目を鋭く細めたのじゃった。

 むし屋を先頭に、祠を担いだ神明三家の当主たちは、ひっそりと神明山を登っていった。
 やがて夕日は西の空へ沈み、山が血を混ぜたような赤黒い紫色に染まった頃「では、儀式を行いましょう」と、むし屋は唐突に立ち止まった。

「こげな道の途中で儀式を行うのか?」
「この先に見晴らしの良い開けた場所がある。儀式を行うにはそこが良いと思うがの」
「わしらが案内しよう」
 当主たちの申し出に、むし屋は色白の首を横に振った。

「オオコトダマの蛹を祀るに必要な条件は、場所にあらず。空が赤く淀んだ逢魔が時のむし霊山なのでございます。本日、この時刻を逃せば、次にオオコトダマの蛹を祀れる日は数年後になりましょう。ささ、時がございませぬ。お三方々、祠の正面に横一列にお並びくださいませ」
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