ようこそ、むし屋へ2 ~麗しの碧ちゃん&むしコンシェルジュの卵編~

箕面四季

文字の大きさ
上 下
35 / 97
二度目のチャイム

オオゴマダラの蛹

しおりを挟む
「それより、上の鈴、見てみろよ」

 優太君が頭上を見上げて顔をほころばせている。
 参拝の時に鳴らす大鈴が、赤い月光を受けて透き通った金色に輝いていた。

「綺麗だけど、形がちょっと歪だね」
 と、感想を言った後、ふと、気が付いた。

「これって、何かの蛹の殻だよね」
 確か、誰かにそう教えてもらった気がする。

「蛹の殻? オオゴマダラの蛹だよ。色も形も本物そっくりだ」
「色も? この鈴、金色だけど。金色の蛹なんかいるの?」

 ごろんとアーモンド形の蛹の形の大鈴は、クリスタルでできたように透明な黄金色に輝いていた。

「そう思うだろ? でも、本物の蛹もこんな風に透き通った金色をしてるんだぜ。あの鈴と同じく黒い斑点模様もついてる。この色は中身が抜ける前の蛹の色なんだ。蛹が羽化して抜け殻になると、金色じゃなくなるんだ」
「へえ~」

 それにしても、この形と色、本当にどこかで見たことがあるような。
 その時に、誰かに、これは蛹の殻だよと、教えてもらった気がするんだけど。
 でも、いつ、どこで、誰にだろう。

 優太君が「この建物の屋根のひさしに、本物のオオゴマダラの蛹がくっついてるよ」と教えてくれた。

 見上げたほたるは「うわぁ」と小さく感嘆を漏らす。

 ミニチュアバージョンの大鈴が、クリスマスの飾りのように屋根のひさしに一定の間隔でぶら下がっている。
 それらは、呼吸するように金色の光を強くしたり弱めたりしていた。

 綺麗に整列するオオゴマダラの蛹を辿って行ったら、一カ所だけ歯が抜けたみたいに間隔が開いている場所があって「あれ?」となる。

「あそこだけ取れちゃったのかな」
「やっぱりだ」
 優太君が、背中のランドセルに触れながら確信を得たように呟いた。

「?」
 何がやっぱりなのだろうと思いながら、ぐるりと蛹を見回していたら、ひと際明るい色をした大黒柱に、古めかしい和紙のお札のようなものが貼られているのが見えた。

『大原やてふの出て舞う朧月』
(和歌? 俳句??)

 ほたるがそのお札に気を取られていると、

「そっちのちんちくりん。われに返却したいものがあるのだろう?」

 御簾の奥の神様が、閉じた扇子で優太君の方を差して言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神の妖診療所

逢汲彼方
キャラ文芸
神として駆け出しの瑞穂は、人間からの人気がなく、まだ自分の神社を持っていなかった。そんな彼は、神々がおわす天界には住めず、人間や低級妖の住む下界で貧乏暮らしをしながら、「妖の診療所」を開いてなんとか食いつないでいた。 しかし、その経営も厳しく今や診療所は破綻寸前。 そんな時、瑞穂はある人間の娘と出会う。彼女とは、どこかで会ったことがある気がするのに瑞穂はどうしても思い出せない。楓と名乗ったその娘は、診療所で働きたいと言い出し、さらに彼女が拾ってきた猫又の美少年も加わり、診療所は賑やかになる。

両国あやかし奇譚(仮)

橘 千里(花散里改め)
キャラ文芸
いわゆる”視える”し”会話も出来る”体質の相撲部屋の部屋付き親方の、妖や幽霊との交流と日常と場所中の話。 ちょくちょく編集していてひっそり描写が変わっています。 (タイトルは変わるかもしれないので「仮」付けています)

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)

黒猫
キャラ文芸
 ハードボイルドとは何か。その定義を教えてやろう。  それはズバリ、酒と女だ。  ちなみに俺は、どっちも弱い。  というか、そういうのは仕事には持ち込まないモンだからな、むしろ弱くて良かった。つくづく、そう思う。  そしてこれは、我がハードボイルド探偵事務所に舞い込んだ妙な依頼と、それを見事に解決したハードボイルドな俺と由紀奈の大活躍の記録の数々だ。  ああ、由紀奈というのは従姪で、口の悪い、俺の助手だ。

【完結】星の海、月の船

BIRD
キャラ文芸
核戦争で人が住めなくなった地球。 人類は箱舟計画により、様々な植物や生物と共に7つのスペースコロニーに移住して生き残った。 宇宙飛行士の青年トオヤは、月の地下で発見された謎の遺跡調査の依頼を受ける。 遺跡の奥には1人の少年が眠る生命維持カプセルがあった。 何かに導かれるようにトオヤがカプセルに触れると、少年は目覚める。 それはトオヤにとって、長い旅の始まりでもあった。 宇宙飛行士の青年と異星人の少年が旅する物語、様々な文明の異星での冒険譚です。

ヒロインモニタリング(一般作)

ヒロイン小説研究所
キャラ文芸
正義のヒロインとして、地球を守っているヒロインにドッキリをかける、そんなテレビ番組を作ることにした。

冥府の花嫁

七夜かなた
キャラ文芸
杷佳(わか)は、鬼子として虐げられていた。それは彼女が赤い髪を持ち、体に痣があるからだ。彼女の母親は室生家当主の娘として生まれたが、二十歳の時に神隠しにあい、一年後発見された時には行方不明の間の記憶を失くし、身籠っていた。それが杷佳だった。そして彼女は杷佳を生んですぐに亡くなった。祖父が生きている間は可愛がられていたが、祖父が亡くなり叔父が当主になったときから、彼女は納屋に押し込められ、使用人扱いされている。 そんな時、彼女に北辰家当主の息子との縁談が持ち上がった。 自分を嫌っている叔父が、良い縁談を持ってくるとは思わなかったが、従うしかなく、破格の結納金で彼女は北辰家に嫁いだ。 しかし婚姻相手の柊椰(とうや)には、ある秘密があった。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

処理中です...