32 / 97
二度目のチャイム
目が回る
しおりを挟む
ぽえーーーん。
とんとんとんとんとん。しゃらん。しゃらん。
ててん。てんてろ。てん、とーん。
たたん。
ぴーーーー、ろーーーー、らーーーん。
ぽえーーーん。
とんとんとんとんとん、と、と、と、と、とととととととと。
赤く熟れた満月のほのかな月明かりの下、拝殿に向かって伸びる石畳を優太君と並んで歩く。
石畳の両側には、一定の間隔で蝶(蛾?)を象った石灯篭が並び、中のろうそくに火が灯っていた。
誰が、いつ、こんなにたくさんの灯篭に火を灯したのだろう。
てゆーか、こんな灯篭あったっけ?
そのうち、うっすらと白い靄のようなものが足元から立ち昇り始めた。先へ進めば進むほど、白い靄は濃くなり、辺りの景色を覆い隠していく。
靄の密度と比例して、雅楽の音色も迫力を増し、どちらともなく、二人の歩調も速くなっていった。
なぜだろう。自分の意思とは関係なく、心がソワソワして、気持ちが流行る。
おそらく、隣を歩く優太君も同じ気持ちなのだろう。子供らしい顔に赤みがさして、ワクワクしている。
「あそこだ」と、優太君が、斜め右側の先に佇む、朱色のこじんまりしたお社を指さした。
靄の中でもはっきり見える、鮮やかな朱色の屋根。建物の柱にヒノキを使っているのか、近づくにつれ、胸のすくような木のよい香りが鼻孔をくすぐった。
締め切った障子戸の和紙は、黄ばみがなく潔白な白さだった。漆の朱色も鮮やかで、柱にも新しさを感じる。
障子戸の内側でろうそくの火が妖しく揺れている。その中から、ぽえーんと雅楽の音色がこぼれていた。
ろうそくのオレンジ色の灯りの中で、着物を着た人がすすすと動いているのが、白い障子のスクリーンに、影となって映し出されている。
ゆらり、はらり、すーと、幽霊のように滑らかに影が動く。影の頭には蝶の触覚のような、二本のギザギザしたものが、ぴよんぴよんと動きに合わせて揺れ動いていた。
背中には、アゲハチョウの羽のようなものも生えている。
ぽえーーーん。
とんとんとんとんとん。しゃらん。しゃらん。
ててん。てんてろ。てん、とーん。
たたん。
ぴーーーー、ろーーーー、らーーーん。
ぽえーーーん。
とんとんとんとんとん、と、と、と、と、とととととととと。
「神楽殿だな」と、優太君が納得したように小声で囁いた。
「神楽殿って、巫女が神楽を舞うところだよね」と、ほたるも囁き返す。
「ダメほたるにしては、よく知ってんじゃん」
「それほどでも~」
「……別に褒めてねーけど。ポジティブな性格だな」
「あ、そっか! この幽霊みたいに動く影の正体って、巫女の舞い? あたし、でっかい蝶の幽霊かと思った」
「……幽霊はともかく、尾状に伸びた後翅と櫛状の触覚からして、たぶんチョウじゃなくて」
その時、影がおもむろに両手を振り上げた。
しゃらん。しゃん。
周りの空気を浄化する高貴な鈴の音が鳴り響いて、ほたるたちは思わず口をつぐむ。
その後、影はゆったりした動作でくるりと横を向き、再び、しゃらん。と鈴を鳴らした。
ひらひらと、背中の羽が優雅に揺れる。
「中、覗いてみよーぜ」
悪ガキ丸だしな表情で、優太君が人差し指を障子に伸ばしていく。
古風にも、のぞき穴を開ける気だ。
「ダメだよ、怒られちゃう」
「大丈夫だって。ダメほたるだって、中、見てみたいだろ」
「それは……」
だだん!!
ぴーーーー、よーーーー!
ぽえーーーん。
ててん。てん、とーん。たたたん。
まるで、優太君の悪巧みに抗議するように、突如、神楽殿の中の音楽が激しくなった。
さすがに驚いた優太君が、伸ばした指を引っ込めた。
ぽえーーーーん。
しゃらん、しゃんしゃんしゃん。
単音と重奏。明確な強弱をつけ、リズムを速めていく雅楽。羽を付けた巫女の舞いもくるくると、狂ったように激しさを増す。
しゃらん、しゃしゃしゃしゃしゃん。
しゃらりん。しゃらん。
熱気で周りの空気がムンムン熱く湿っていく。まるで亜熱帯の夜のように。
赤い満月。
雅楽。
踊り狂う巫女の舞い。
ぐるぐる、ぐるぐる。
「優太君、あたし、なんだか目が回ってきたんだけど」
「オレも……」
とんとんとんとんとん。しゃらん。しゃらん。
ててん。てんてろ。てん、とーん。
たたん。
ぴーーーー、ろーーーー、らーーーん。
ぽえーーーん。
とんとんとんとんとん、と、と、と、と、とととととととと。
赤く熟れた満月のほのかな月明かりの下、拝殿に向かって伸びる石畳を優太君と並んで歩く。
石畳の両側には、一定の間隔で蝶(蛾?)を象った石灯篭が並び、中のろうそくに火が灯っていた。
誰が、いつ、こんなにたくさんの灯篭に火を灯したのだろう。
てゆーか、こんな灯篭あったっけ?
そのうち、うっすらと白い靄のようなものが足元から立ち昇り始めた。先へ進めば進むほど、白い靄は濃くなり、辺りの景色を覆い隠していく。
靄の密度と比例して、雅楽の音色も迫力を増し、どちらともなく、二人の歩調も速くなっていった。
なぜだろう。自分の意思とは関係なく、心がソワソワして、気持ちが流行る。
おそらく、隣を歩く優太君も同じ気持ちなのだろう。子供らしい顔に赤みがさして、ワクワクしている。
「あそこだ」と、優太君が、斜め右側の先に佇む、朱色のこじんまりしたお社を指さした。
靄の中でもはっきり見える、鮮やかな朱色の屋根。建物の柱にヒノキを使っているのか、近づくにつれ、胸のすくような木のよい香りが鼻孔をくすぐった。
締め切った障子戸の和紙は、黄ばみがなく潔白な白さだった。漆の朱色も鮮やかで、柱にも新しさを感じる。
障子戸の内側でろうそくの火が妖しく揺れている。その中から、ぽえーんと雅楽の音色がこぼれていた。
ろうそくのオレンジ色の灯りの中で、着物を着た人がすすすと動いているのが、白い障子のスクリーンに、影となって映し出されている。
ゆらり、はらり、すーと、幽霊のように滑らかに影が動く。影の頭には蝶の触覚のような、二本のギザギザしたものが、ぴよんぴよんと動きに合わせて揺れ動いていた。
背中には、アゲハチョウの羽のようなものも生えている。
ぽえーーーん。
とんとんとんとんとん。しゃらん。しゃらん。
ててん。てんてろ。てん、とーん。
たたん。
ぴーーーー、ろーーーー、らーーーん。
ぽえーーーん。
とんとんとんとんとん、と、と、と、と、とととととととと。
「神楽殿だな」と、優太君が納得したように小声で囁いた。
「神楽殿って、巫女が神楽を舞うところだよね」と、ほたるも囁き返す。
「ダメほたるにしては、よく知ってんじゃん」
「それほどでも~」
「……別に褒めてねーけど。ポジティブな性格だな」
「あ、そっか! この幽霊みたいに動く影の正体って、巫女の舞い? あたし、でっかい蝶の幽霊かと思った」
「……幽霊はともかく、尾状に伸びた後翅と櫛状の触覚からして、たぶんチョウじゃなくて」
その時、影がおもむろに両手を振り上げた。
しゃらん。しゃん。
周りの空気を浄化する高貴な鈴の音が鳴り響いて、ほたるたちは思わず口をつぐむ。
その後、影はゆったりした動作でくるりと横を向き、再び、しゃらん。と鈴を鳴らした。
ひらひらと、背中の羽が優雅に揺れる。
「中、覗いてみよーぜ」
悪ガキ丸だしな表情で、優太君が人差し指を障子に伸ばしていく。
古風にも、のぞき穴を開ける気だ。
「ダメだよ、怒られちゃう」
「大丈夫だって。ダメほたるだって、中、見てみたいだろ」
「それは……」
だだん!!
ぴーーーー、よーーーー!
ぽえーーーん。
ててん。てん、とーん。たたたん。
まるで、優太君の悪巧みに抗議するように、突如、神楽殿の中の音楽が激しくなった。
さすがに驚いた優太君が、伸ばした指を引っ込めた。
ぽえーーーーん。
しゃらん、しゃんしゃんしゃん。
単音と重奏。明確な強弱をつけ、リズムを速めていく雅楽。羽を付けた巫女の舞いもくるくると、狂ったように激しさを増す。
しゃらん、しゃしゃしゃしゃしゃん。
しゃらりん。しゃらん。
熱気で周りの空気がムンムン熱く湿っていく。まるで亜熱帯の夜のように。
赤い満月。
雅楽。
踊り狂う巫女の舞い。
ぐるぐる、ぐるぐる。
「優太君、あたし、なんだか目が回ってきたんだけど」
「オレも……」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
時々、僕は透明になる
小原ききょう
青春
影の薄い僕と、7人の個性的、異能力な美少女たちとの間に繰り広げられる恋物語。
影の薄い僕はある日透明化した。
それは勉強中や授業中だったり、またデート中だったり、いつも突然だった。
原因が何なのか・・透明化できるのは僕だけなのか?
そして、僕の姿が見える人間と、見えない人間がいることを知る。その中間・・僕の姿が半透明に見える人間も・・その理由は?
もう一人の透明化できる人間の悲しく、切ない秘密を知った時、僕は・・
文芸サークルに入部した僕は、三角関係・・七角関係へと・・恋物語の渦中に入っていく。
時々、透明化する少女。
時々、人の思念が見える少女。
時々、人格乖離する少女。
ラブコメ的要素もありますが、
回想シーン等では暗く、挫折、鬱屈した青春に、
圧倒的な初恋、重い愛が描かれます。
(登場人物)
鈴木道雄・・主人公の男子高校生(2年2組)
鈴木ナミ・・妹(中学2年生)
水沢純子・・教室の窓際に座る初恋の女の子
加藤ゆかり・・左横に座るスポーツ万能女子
速水沙織・・後ろの席に座る眼鏡の文学女子 文芸サークル部長
小清水沙希・・最後尾に座る女の子 文芸サークル部員
青山灯里・・文芸サークル部員、孤高の高校3年生
石上純子・・中学3年の時の女子生徒
池永かおり・・文芸サークルの顧問、マドンナ先生
「本山中学」
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ようこそブレイン・トラベラーへ…楽しい脳内旅行をどうぞお楽しみください
行枝ローザ
キャラ文芸
時は未来。
人は自分自身を移動させるだけでなく、思考により『ひとり旅行』をすることが可能となった。
好きな時間・好きな所・好きなシチュエーション…ひとりで、またはたったひと時だけを共にする『添乗員』の案内で、人はどんなところも行けるようになった。
そんな会社のひとつ、『ブレイン・トラベラー』が請け負ったひとつの『旅行』
彼女が望んだ旅行は『特別じゃない、普通の日』だった。
〈銀龍の愛し子〉は盲目王子を王座へ導く
山河 枝
キャラ文芸
【簡単あらすじ】周りから忌み嫌われる下女が、不遇な王子に力を与え、彼を王にする。
★シリアス8:コミカル2
【詳細あらすじ】
50人もの侍女をクビにしてきた第三王子、雪晴。
次の侍女に任じられたのは、異能を隠して王城で働く洗濯女、水奈だった。
鱗があるために疎まれている水奈だが、盲目の雪晴のそばでは安心して過ごせるように。
みじめな生活を送る雪晴も、献身的な水奈に好意を抱く。
惹かれ合う日々の中、実は〈銀龍の愛し子〉である水奈が、雪晴の力を覚醒させていく。「王家の恥」と見下される雪晴を、王座へと導いていく。
占星術師アーサーと彼方のカフェ
不来方しい
キャラ文芸
【※第6回キャラ文芸大賞奨励賞受賞】アルバイト先の店長は、愛に生きる謎多き英国紳士だった。
道案内をした縁があり、アーサーの元でアルバイトをすることになった月森彼方。そこは、宝石のようなキラキラしたスイーツと美味しい紅茶を出す占いカフェだった。
彼の占いを求めてやってくる人は個性豊かで、中には人生を丸々預けようとする人も。アーサーは真摯に受け止め答えていくが、占いは種も仕掛けもあると言う。
──私は、愛に生きる人なのです。
彼はなぜ日本へやってきたのか。家族との確執、占いと彼の関係、謎に満ちた正体とは。
英国紳士×大学生&カフェ×占星術のバディブロマンス!
貸本屋七本三八の譚めぐり
茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】
舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。
産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、
人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。
『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。
ブルーナイトディスティニー
竹井ゴールド
キャラ文芸
高2の春休み、露図柚子太は部活帰りに日暮れの下校路を歩いていると、青色のフィルターが掛かった無人の世界に迷い込む。
そして変なロボに追われる中、空から降りてきた女戦闘員に助けられ、ナノマシンを体内に注入されて未来の代理戦争に巻き込まれるのだった。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる