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二度目のチャイム

目が回る

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 ぽえーーーん。

 とんとんとんとんとん。しゃらん。しゃらん。
 ててん。てんてろ。てん、とーん。
 たたん。
 ぴーーーー、ろーーーー、らーーーん。

 ぽえーーーん。
 
 とんとんとんとんとん、と、と、と、と、とととととととと。

 赤く熟れた満月のほのかな月明かりの下、拝殿に向かって伸びる石畳を優太君と並んで歩く。
 石畳の両側には、一定の間隔で蝶(蛾?)を象った石灯篭が並び、中のろうそくに火が灯っていた。

 誰が、いつ、こんなにたくさんの灯篭に火を灯したのだろう。
 てゆーか、こんな灯篭あったっけ?

 そのうち、うっすらと白い靄のようなものが足元から立ち昇り始めた。先へ進めば進むほど、白い靄は濃くなり、辺りの景色を覆い隠していく。
 靄の密度と比例して、雅楽の音色も迫力を増し、どちらともなく、二人の歩調も速くなっていった。

 なぜだろう。自分の意思とは関係なく、心がソワソワして、気持ちが流行る。
 おそらく、隣を歩く優太君も同じ気持ちなのだろう。子供らしい顔に赤みがさして、ワクワクしている。

「あそこだ」と、優太君が、斜め右側の先に佇む、朱色のこじんまりしたお社を指さした。

 靄の中でもはっきり見える、鮮やかな朱色の屋根。建物の柱にヒノキを使っているのか、近づくにつれ、胸のすくような木のよい香りが鼻孔をくすぐった。

 締め切った障子戸の和紙は、黄ばみがなく潔白な白さだった。漆の朱色も鮮やかで、柱にも新しさを感じる。 
 障子戸の内側でろうそくの火が妖しく揺れている。その中から、ぽえーんと雅楽の音色がこぼれていた。

 ろうそくのオレンジ色の灯りの中で、着物を着た人がすすすと動いているのが、白い障子のスクリーンに、影となって映し出されている。

 ゆらり、はらり、すーと、幽霊のように滑らかに影が動く。影の頭には蝶の触覚のような、二本のギザギザしたものが、ぴよんぴよんと動きに合わせて揺れ動いていた。
 背中には、アゲハチョウの羽のようなものも生えている。

 ぽえーーーん。

 とんとんとんとんとん。しゃらん。しゃらん。
 ててん。てんてろ。てん、とーん。
 たたん。
 ぴーーーー、ろーーーー、らーーーん。

 ぽえーーーん。
 
 とんとんとんとんとん、と、と、と、と、とととととととと。

「神楽殿だな」と、優太君が納得したように小声で囁いた。
「神楽殿って、巫女が神楽を舞うところだよね」と、ほたるも囁き返す。

「ダメほたるにしては、よく知ってんじゃん」
「それほどでも~」
「……別に褒めてねーけど。ポジティブな性格だな」

「あ、そっか! この幽霊みたいに動く影の正体って、巫女の舞い? あたし、でっかい蝶の幽霊かと思った」
「……幽霊はともかく、尾状に伸びた後翅と櫛状の触覚からして、たぶんチョウじゃなくて」

 その時、影がおもむろに両手を振り上げた。

 しゃらん。しゃん。

 周りの空気を浄化する高貴な鈴の音が鳴り響いて、ほたるたちは思わず口をつぐむ。
 その後、影はゆったりした動作でくるりと横を向き、再び、しゃらん。と鈴を鳴らした。
 ひらひらと、背中の羽が優雅に揺れる。

「中、覗いてみよーぜ」
 悪ガキ丸だしな表情で、優太君が人差し指を障子に伸ばしていく。
 古風にも、のぞき穴を開ける気だ。

「ダメだよ、怒られちゃう」
「大丈夫だって。ダメほたるだって、中、見てみたいだろ」
「それは……」

 だだん!!
 ぴーーーー、よーーーー!
 ぽえーーーん。
 ててん。てん、とーん。たたたん。

 まるで、優太君の悪巧みに抗議するように、突如、神楽殿の中の音楽が激しくなった。
 さすがに驚いた優太君が、伸ばした指を引っ込めた。

 ぽえーーーーん。
 しゃらん、しゃんしゃんしゃん。

 単音と重奏。明確な強弱をつけ、リズムを速めていく雅楽。羽を付けた巫女の舞いもくるくると、狂ったように激しさを増す。

 しゃらん、しゃしゃしゃしゃしゃん。
 しゃらりん。しゃらん。

 熱気で周りの空気がムンムン熱く湿っていく。まるで亜熱帯の夜のように。
 赤い満月。
 雅楽。
 踊り狂う巫女の舞い。

 ぐるぐる、ぐるぐる。

「優太君、あたし、なんだか目が回ってきたんだけど」
「オレも……」
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