上 下
31 / 97
二度目のチャイム

雅楽

しおりを挟む
「確かに、ちょっと遅いね……」 
 いるはずのない蝶(と蛾)が舞い、夕方を過ぎたあとに夕方のチャイムが鳴り、そのチャイムに合わせるように昼の空が夜になる。
 スマホの時計は零時零分。

 どう考えても、異常だ。
 この異常な空間で、碧ちゃんが戻ってこない。
 ほたるは碧ちゃんのことが、無性に心配になってきた。

「優太君、一緒に碧ちゃんを探しに」と、言いかけた時、ぽえーーーん。と、境内奥の拝殿の方から、木々が風に揺れるような、和楽器の笛の音が聞こえてきた。
 更に、湿った和太鼓の音も響いてくる。

 とんとんとんとんとん。しゃらん。
 ててん。てんてろ。てん、とーん。
 たたん。
 ぴーーーー、ろーーーー、らーーーん。

 ぽえーーーん。
 てんてろてろてろ。
 とんとんとんとんとん、と、と、と、と、とととととととと。


 初詣の神社で流れているような、みやびな和重奏。伝統的な笛太鼓の音色が、神社の夜と同化して、ゆったり心地よく耳に響いてくる。
 時折奏でられる、しゃらん、という、心を浄化するような鈴の音が、神聖な気持ちにさせる。

「雅楽だ。生音かな? いってみよーぜ」
 好奇心旺盛な優太君が、すぐさま反応して、ぱっと目を輝かせた。

「でも碧ちゃんを探しに行かないと」
「その碧ちゃんも、そこにいるかもよ」

 確かに、そんな気もする。
 それになにより、ほたるの心もこの音色にすっかり奪われてしまっていた。

 二人は音色のする方へと引き寄せられていったのだった。

しおりを挟む

処理中です...