上 下
30 / 97
二度目のチャイム

二度目のチャイム

しおりを挟む
 古びた鐘のメロディーが、どこからともなく、境内に流れてくる。
 どうやら夕方を告げるチャイムのようだけど。

「あれ? 夕方のチャイムって、さっき鳴らなかったっけ?」
「オレも神明山で聞いた気がする」

 顔を見合わせた二人は、一緒に空を見上げた。

 リーン、ロン、リン、ロン、リン、ロン、ローン。

 まったりと流れる雲に合わせて、間延びした鐘の音色が神社内に響き、独特の物悲しさを醸し出す。

 優太君が「これ童謡の『ちょうちょ』だ」と、ほたるを見た。
「あ、本当だ」

 『ちょうちょ』は、わりと楽しい曲調のはずなのに、夕方のチャイムで聞くと、物悲し気に聞こえて、全然別の曲みたいに聴こえる。
 それで、すぐにはこれが『ちょうちょ』の曲だと、気づけなかったのだ。

「夕方のチャイムって、なんでこんなに寂しい音色なんだろうね。うちの地元のチャイムもそうだけど、このチャラーンって独特の音聞くと、ああ、今日も終わっちゃうな~って、憂鬱な気分になるんだよね」

 言ってるそばから、せつない気分になって、ほたるはため息を吐いた。

「それな。たぶんさ、公園とか市役所とかの電柱の上についてるスピーカーの音質が悪いせいじゃないかなぁ。ほら、公園に設置してるスピーカーってかなり古いだろ? あれ、社会の教科書についてる昭和とか平成初期とかの電化製品に雰囲気似てんだよな。あのスピーカーのせいでメランコリックな音になるのかも」

「メランコリックなんて言葉、その年でよく知ってるね。てゆーか、さすが名門私立の小学生。分析力がスゴすぎ」

 感心するほたるに「別に」と、優太君の顔がちょっと赤くなった。あれ、照れてる?

「テキトーに言っただけだから真相はわかんねーし。それより、このチャイムって結局何時のチャイム? 五時? 六時?」
「ちょっと待ってね。今スマホで時間見てみる。ん?」
 トートバッグからスマホを取り出したほたるは困惑した。

「なに? 充電切れ?」と優太君が覗き込む。
「充電はあるんだけど、ほら」
 スマホの電源を押して、優太君に差し出す。

「スマホが圏外なのは、山の中だしあり得るとして、時計機能まで狂ってるの。なんで?」
 時計は、零時零分。

「いや、オレに聞かれても。つか」
 優太君がハッと、空を見上げた。

「なんかいきなり暗くなってきてね?」
「あ、本当だ」

 ほんの数分前まで、蝶が舞い、太陽が燦々と輝く昼間の世界だった神社が、今や濃いオレンジ色の夕暮れに染まりつつあった。
 夕暮れ時の空の中、『チョウチョ』のチャイムは相変わらずの物悲しさで流れていく。

 さくらのはなの~ 
 はなからはなへ~
 なのはに、あいたら~


「理科の授業で見た、空の早回し動画みたいだ」と、空を見上げながら優太君がまたまた分析。
 確かにぴったりな表現だ。
 ぐるぐると、早回しで空が夜へと変化していく。

 ターラーリーロー リンリンリーーーン……
(さくらに、とまれ~~)

 ぶつん、と、放送が切れる。
 『ちょうちょ』のチャイムが終わると同時に、神明神社に夜の帳が下りた。

 しっとり湿度のある群青色の夜空と、妙に赤く大きな満月。そこから漏れる、もんわりと赤い月光。

(この光景、どっかで見たような)


「あの人、遅くね?」
 優太君が真顔で神社のお社の方を見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の系譜

つくも茄子
キャラ文芸
故内大臣の姫君。 御年十八歳の姫は何故か五節の舞姫に選ばれ、その舞を気に入った帝から内裏への出仕を命じられた。 妃ではなく、尚侍として。 最高位とはいえ、女官。 ただし、帝の寵愛を得る可能性の高い地位。 さまざまな思惑が渦巻く後宮を舞台に女たちの争いが今、始まろうとしていた。

占星術師アーサーと彼方のカフェ

不来方しい
キャラ文芸
【※第6回キャラ文芸大賞奨励賞受賞】アルバイト先の店長は、愛に生きる謎多き英国紳士だった。 道案内をした縁があり、アーサーの元でアルバイトをすることになった月森彼方。そこは、宝石のようなキラキラしたスイーツと美味しい紅茶を出す占いカフェだった。  彼の占いを求めてやってくる人は個性豊かで、中には人生を丸々預けようとする人も。アーサーは真摯に受け止め答えていくが、占いは種も仕掛けもあると言う。 ──私は、愛に生きる人なのです。 彼はなぜ日本へやってきたのか。家族との確執、占いと彼の関係、謎に満ちた正体とは。  英国紳士×大学生&カフェ×占星術のバディブロマンス!

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

妖刀戦鬼〜オーガ・リベンジ・ストーリー〜

YA-かん
キャラ文芸
突然怪物に襲われた原川光。怪物は鬼!?しかも取り憑かれた…。持ち前の正義感から鬼退治組織に参加した彼だがわがまま放題の『天邪鬼』と共に鬼から世界を守れるのか。 (カクヨムにも投稿してあります。そちらにはネタバレ注意ですが設定資料があります。)

神様のひとさじ

いんげん
キャラ文芸
ラブコメから始まる、各要素もりもり恋愛中心の小説。 人類は、一度絶滅した。 神様に再び作られた、アダムとイブ。  地下のコロニーでAIに作られた人間、ヘビ。  イブは、ヘビを運命の相手だと勘違いして、猛アタックを開始。しかし、本当のアダムと出会って。 「え? あれ? 間違ってかも」  その気になりかけていた、ヘビはモヤモヤする。  イブこと、ラブも、唯一の食事を提供してくれる、将来が想像出来るアダムと、心動かされたヘビとの間で揺れる。  ある日、コロニーで行方不明者が出て、彼を探すコロニーのメンバーだったが、AIが彼の死した映像を映し出す。彼は、誰かに殺されたのか、獣に襲われたのか、遺体が消え真相は分からず。  しかし、彼は帰ってきた。そして、コロニーに獣を引き入れ、襲撃を開始した。  変わり果てた彼の姿に、一同は困惑し、対立が始まる。  やがてコロニーの一部の人間は、外の楽園へと旅立つアダムとラブに着いていく事に。  その楽園では、神の作り出した、新たな世を創造していくシステムが根付いていた。  偽物の人間達の排除が始まる。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

千文字小説

レン太郎
キャラ文芸
千文字前後の作品集です。 暇つぶしになれば幸いです。

『俺の死んだ日』〜『猫たちの時間』8〜

segakiyui
キャラ文芸
俺、滝志郎。人に言わせれば、『厄介事吸引器』。 今から3日前、俺は事故死した。いや、事故死したことになっている。 俺を車に乗せていた春日井あつしは、製薬会社の産業スパイ事件に絡んでおり、どうやらその巻き添えを食ったらしい。俺を死なせた原因が自分にあると思い込んだ周一郎はひどく落ち込んでいく。 『猫たちの時間』シリーズ8。クライマックスはまだ。

処理中です...