ようこそ、むし屋へ2 ~麗しの碧ちゃん&むしコンシェルジュの卵編~

箕面四季

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神明神社

神明神社の異常

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「てゆーか、毒のある蝶がいるなら、チョウチョも危険だね」
「まあ、毒っつっても……ほら、あそこの薄ピンクのほわほわした花の上にいるアサギマダラとか、それから、あの黄色い花に群がってる、大きくて白い羽に黒いマダラ模様が入ったオオゴマダラとか、マダラって名前の付くチョウは体内に植物由来の毒を持ってることが多いけど、食べなきゃ大丈夫」

「あ、そうなんだ」
 なら、全然問題ないじゃん。
 だって、虫は食べ物じゃないもの。


「ちなみにオオゴマダラは日本で最も大きなチョウのひとつなんだ。オオゴマダラの生息地は南西諸島でって、そうだった。それだよそれ」

 優太君は、水盤の蝶たち(と蛾)をじっくり観察して、空に飛び回る蝶(と蛾?)にも目をやり「うん。まちがいないよな。やっぱり変だ」と、確信を持って頷いた。

「何が変なの?」

「ここには神明市に生息するはずのない個体も一堂に集まってるんだ。ほら、水盤の縁にとまって、羽をたたんでる枯れ葉みたいな個体。あれはコノハチョウって言って、オオゴマダラと同じく南西諸島にしか生息しない。それから、ほら、キアゲハの横を飛んでる、ええと、羽の後ろがキザギザしてるチョウ。あれはフタオチョウって言って生息地は沖縄と奄美大島なんだよ。どっちも神明市にいるはずのないチョウなんだ。つまり、分布地が異なるチョウやガがここにいるってこと。それから……ほら、あの紫色の花に群がってるナミアゲハ、いわゆるアゲハチョウのことな。あれも、よく見ると大きさや羽の色の濃さが違うだろ?」

「本当だ。ちょっと大きいのもいるし、羽の模様が鮮やかな子と薄い色の子がいる」

「鱗翅目の中には一年に数回発生する種類がいて、ナミアゲハもそうなんだ。発生時期によって、少しずつ特徴が違っていて、春型のナミアゲハが一番色が鮮やかで、夏型は薄くて、秋型は春型と夏型の中間くらいの色をしているんだけど」
「へえ~、知らなかった~」

「へえ~って、何のほほんと言ってんだよ。これって、異常だろ?」
「どうして?」

「つまり、違う季節に発生するナミアゲハがいっぺんに存在してるんだよ。だからつまり」
 優太君がヒラヒラ境内の空を舞う色鮮やかな蝶(と蛾)を見上げた。

「この神社には分布地も発生時期も異なるチョウとガが、いっぺんに集まっている。どう考えても普通じゃないと思う。……それにあのオオミズアオって人は」
 
 その時、優太君の言葉を遮るように、ティーン、ローン、ロン~と、境内全体にチャイムが響き渡った。
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