上 下
26 / 97
神明神社

むし屋のむしの漢字

しおりを挟む
「あ、そうだ。なら、この『むし』も知ってる?」

 はた、と思いついて、ほたるは優太君から細い枝を借りて、『虫』の、『中』の二つの空白の部分に人の文字が入った『むし』の漢字を書いていく。
 むし屋の看板に書かれている『むし』の漢字だ。  

「これ、こういう字。これも『むし』って読むんだけど、意味とかわかったりする?」

 ほたるの丸い癖字をじぃっと眺めた後、優太君は腕を組んでしばし考えこんだ。
 つり目の中の瞳が微妙に上の方を向いている。頭の中にある辞書でも引いているのだろうか。

「つか、そんな字ないよ」
 確信を持って、優太君が断言した。

「オレの持ってる漢和辞典にも、漢字辞典にも、国語辞典にも、広辞苑にも、旧常用漢字辞典にも、古語辞典にも、旧字体辞典にも乗ってなかったと思う」
「……優太君、そんなに辞典持ってるんですか?」

 てゆーか、広辞苑とか、一般家庭にあるものだっけ?

「たぶん、創作漢字じゃね? どこで見たの?」
「えっと……むしを扱う専門のお店、みたいなところかな」

「ふうん。海外の昆虫とか売ってるとこ? 外国産のカブクワとか、マダガスカルゴキブリとか、メキシカンレッドニーとか、ペットで人気の昆虫を高値で売ってる店?」

「え? ゴキブリって、ペットで人気なの? うちのお母さん、新聞紙丸めてバンバン叩いちゃってるけど、あれ、高いの?」

「それはチャバネゴキブリかクロゴキブリだろ? マダガスカルゴキブリはもっとでっかくて、ダンゴムシに似た形してんだ。硬くて、撫でがいもあるし、機嫌悪いと威嚇してシューシュー鳴いたりもするんだぜ」

「なるほどー」
 ちょっと言ってる意味がわからないので、流しておこう。

「とりま、そういう海外の虫を取り扱うような店って、違法に輸入してるヤバい店も多いからさ。気を付けた方がいいぜ」

(向尸井さんがいたら「違いますね」とか、食い気味に否定されそう)

 そんでもって、めっちゃ睨まれそう。冷血に。
 ふと、氷のような瞳で刺された気がして、ほたるはアハハ、と笑った。

「そ、そっかー、気を付けるよ。そっかそっか、創作漢字かー」

 笑ってごまかしながら、どうやらあの漢字は、体内に宿る「むし」を取り扱う店独自のものらしいなぁ。と、ほたるは心の中で思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

俺がロボットに乗って活躍するぜ!

けろよん
キャラ文芸
現代の日本に人々の生活を脅かす存在が現れた。怪獣だ。 奴らは災害を撒き散らす者という意味を込めて災獣ディザスターと呼ばれるようになった。 青年隼人は博士の造ったロボットに乗って自分が戦うのだと信じてトレーニングを続けてきた。 だが、ロボットのパイロットに選ばれたのは年端もいかない少女だった。 納得のいかない答えを跳ねのけるには現実を教えてやるしかない。 隼人は仕方なくパイロットに選ばれたその少女を迎えに行くことにする。 果たして隼人は活躍できるのだろうか。

ぱんだ喫茶店へようこそ ~パンダ店長はいつもモフモフです~

和賀ミヲナ
キャラ文芸
プロポーズ間近と思っていた彼氏から衝撃的な言葉を告げられた女性が傷心のなか歩く道にふと現れた不思議な喫茶店。 その名は「ぱんだ喫茶店」 パンダ店長と呼ばれた人は何とも不思議な容姿をしているし、アルバイト店員も美少年?美少女なの?性別不明な子もいれば、 ヤクザ顔負けのコワモテな店員もいるし… なんだかバラエティーに富んだ不思議なお店。 その不思議なお店の店員たちと織り成す少しだけ愉快で不思議な物語です。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

腐っている侍女

桃井すもも
恋愛
私は腐っております。 腐った侍女でございます。 腐った眼(まなこ)で、今日も麗しの殿下を盗み視るのです。 出来過ぎ上司の侍従が何やらちゃちゃを入れて来ますが、そんなの関係ありません。 短編なのに更に短めです。   内容腐り切っております。 お目汚し確実ですので、我こそは腐ってみたいと思われる猛者読者様、どうぞ心から腐ってお楽しみ下さい。 昭和のネタが入るのはご勘弁。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

浮気夫、タイムリープで地獄行き

おてんば松尾
恋愛
夫は浮気している。 私は夫に浮気され、離婚され子供を取り上げられた。 病んで狂って、そして私は自ら命を絶った。 それが一度目の人生。 私は巻き戻った。 新しい人生は、夫に従い、従順な妻を演じることにした。 彼に捨てられないように、子どもたちを取り上げられないようにと頑張った。 けれど、最後は夫と子供をあの女に奪われた。 三度目の人生。 私はもう絶対に間違わない。 ※他サイトにも投稿中

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

処理中です...