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神明神社

パピヨン

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 激しい色もさることながら、その形の珍妙さにも驚かされる。
 狛犬にしてはやけに胴長で、なんというか、とにかく、かなりヘンテコなのだ。

 ちょっと離れたところに、赤黒い色の色違いのオブジェも立っている。
 左右対称だし、優太君の言うとおり、どうやらこれらは、この神社の狛犬のようだけれど。
 もう一度、近い方の狛犬をじっくり眺めて、首を捻る。

「……現代アート、的な?」

 近くで佇む狛犬の身体は、蛍光ペンのように発色のいい黄緑色に輝いていて、茎の長い葉っぱに掴まりながら、身体をぐいっと逸らせていた。
 その背中がボコボコとしていて、黒い毛が、ぴよん、ぴよんと、背中のボコボコから飛び出すように生えている。
 長い身体を横半分に割るように、すーっと一本走る黄色い線と、濃いピンク色の山形模様はオシャレな気もするような、しないような。

 一言で表すならば、「キモい」

 もう一体の狛犬は色も赤黒くて、更にキモい。
 でも、この独特の、果実が傷んだような色合いは、どっかで見たことがあるような。

(そっか、むしだ!)
 自分の体内から出てきた喪失目の蛹の色と似ているのだ。

 喪失目の蛹は、幼馴染の篤への初恋を引きずっていたほたるが、むし屋のむしコンシェルジュの向尸井さんによって体内から取り出してもらった「むし」である。
 
 ナマコに似た形の赤黒い蛹で、無事羽化をして、コバルトブルーの蝶になったのだが……。
 ほたるは、ピンっと閃いた。

「これって、蝶の幼虫じゃない?」
 名探偵ほたる、またまた名推理が炸裂!!

「なに当たり前のことをドヤ顔で言ってんだよ。見りゃわかるじゃん。まあ、厳密にはチョウじゃなくてガの幼虫だけどな」
「え、蛾の幼虫なの?」

「ほら、この前ザマスさまの家で話したろ。オレの守護神ルナモスの幼虫だよ」
「へえ」
 なーんだ、蛾の幼虫か。

「あ、今、なんだガかぁって思っただろ」
「だって、蛾なんでしょ」
 はあ、と、優太君が軽蔑の眼差しを向けてくる。

「あのなぁ、ガもチョウも同じ鱗翅目の仲間で、生物分類学上では同じなんだぜ。フランス語では、ガもチョウもパピヨンって呼んでて、フランス人は日本人みたいにチョウだから綺麗で、ガだからキモいみたいな感覚は持ってないしな。ドイツ語でもどっちもシュメッタリンクって言うし」
「そうなの?」

「そうだよ! よく知りもしないで、ガはキモいとか思うの偏見だぜ。ガの中にもすっげー綺麗な羽の個体だっているのに、そういうの全然知らないで、なんだガかぁとか思わないでほしいよな、全く」
 失礼しちゃうぜ。と、憤慨する優太君。

 確かに、至極真っ当なご意見。
「すみませんでした」と、ほたるは素直に謝った。

 謝りつつも、綺麗な蛾なんて本当にいるんだろうか。と、首を傾げたくなる。
 蛾といったら、夜にピラピラしてる茶色いやつで、蝶とは似ても似つかない気がするのだけれど。

「わかればよろしい」
 優太君が大学教授のように、こくこくと大仰に頷いた。

「まあ、日本人が鱗翅目をガとチョウに分けるのは、それだけ虫に関心があるって証でもあるんだけどさ。オレとしては、チョウだけじゃなく、ガのこともちゃんと知って愛でて欲しいわけよ。あ、ちなみにこの幼虫の名前のルナモスって言うのは英語名で、オレは母親の影響でそっちの言い方に慣れてっけど、日本名は……」

 ハッとなった優太君が「あの人は」と、キョロキョロ辺りを見回す。

「あの人って、碧ちゃんのこと? トイレに行ったみたいだけど、碧ちゃんがどうかしたの?」
「……いや、なんでもない」
「?」
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