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麗しの碧ちゃん

神明大学のオアシス

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 神明大学は、神明山という山の一部を切り開いて作られたキャンパスで、周囲は山に囲まれている。

 無駄に広いキャンパスを出て、レンガ色のアスファルトを500mほど下れば、お洒落なカフェや雑貨店が連なる神明通りとぶつかる。
 そこが通称カフェ通り。この辺り唯一の繁華街にして、神明大学生のオアシスでもある。
 カフェ通りは東西に延びていて、西側の緩やかな上り坂を15分ほど歩いて、南に折れ、更に五分ほど急こう配の坂を上れば、ほたるの住んでいるハイツ『ブルームハイツⅠ』に到着する。

 神明大学の節操のないカリキュラムにもかかわらず、偶然にも何度も講義室で出会い友達になった紗耶香ちゃんやゆりりんと帰るときは、いつもカフェ通りのオシャレなカフェでお茶したり、雑貨店を覗いたりするから、15分の道のりが2時間くらいになってしまう。
 カフェ通りは、誘惑が多い魅力的な通りなのだ。
 歩いているだけで、自分がおしゃれ女子になった気がしてくる感じも、いい。

 大学のロータリーを碧ちゃんと歩きながら(そういえば、碧ちゃんと一緒に帰るのは初めてだなぁ)と、考える。

 水黄緑のワンピースを着た碧ちゃんはカフェ通りを歩くだけで絵になりそうだ。
 ほたるは、ワンピースの少女と風船が描かれた有名なアートを思い浮かべ、少女に碧ちゃんを重ねて、一人頷く。

(うんうん。絵になる、絵になる)

 てことは、あたしは風船?
 いやいや、違うぞ。さすがに、生き物くらいの価値はあるはず。
 慌てて妄想をかき消し、ルンルン隣を歩く碧ちゃんをチラ見して、くふふっと鼻を膨らました。

(美女の碧ちゃんとカフェ巡り……萌える)

 碧ちゃんは甘いもの好きかな。好きだよね。絶対好きに違いない。
 ハワイアンカフェ『aloha』のパンケーキは、生地がふわっふわで、ベリー系のフルーツもたっぷり乗っていて、生クリームもこんもりで、メープルシロップもたぷたぷにかかってて、一口食べた瞬間、極上の甘さで顔がニヤケるほど美味しい。

(碧ちゃんとパンケーキ……いい)

 そのあとは、腹ごなしに雑貨巡りをして、それから、先月できたばっかりのジェラートショップでひとやすみ。

(いいねいいね!)

 ウキウキと頭の中で碧ちゃんとのデートプランを練っていたら、大学の正門が見えてきた。
 正門を抜ければ、カフェ通りへ続くレンガ色のアスファルトが見えてくる。

 ところが、正門へ向かおうとするほたるの腕を、碧ちゃんがぐいんと掴んで方向転換させた。

「ほたるちゃん、そっちじゃなくて、こっちー」

 碧ちゃんが指し示している方向には、人気のない神明門がちょこんとある。
 神明山に面した神明門は、いつでも日陰で、陰気な感じが漂っていて、誰も使わないので、錆びた鉄の門扉は自分で開けて自分で閉めるスタイルだ。

「神明門から出ても、山しかないよ」
「そうだよー」

 にっこり笑ってズンズン進みだす碧ちゃん。
 よくわからないけれど……

(まあ、いっか)
 ほたるも碧ちゃんのあとに続いた。
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