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麗しの碧ちゃん

ハニー顔イケメンに迫られる

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「あ、碧ちゃん近い……」
 碧ちゃんの小顔がドアップに迫っている。

「えー、全然近くないよー。近いっていうのはぁ」
 言いながら、碧ちゃんがほたるの腕をぐいと引き寄せる。

 首に巻いた白いモフモフストールがほたるの鼻先をふぁさっとくすぐった瞬間、ムンと、亜熱帯に咲く花のような、湿った甘い匂いが立ち昇った。

 途端、目の前がピンク色に染まっていく。
 くらくらと、のぼせたようなめまいがして、身体がふわふわし始めた。

 この感じ。まるで虫酔い草のシロップを飲んだ時みたい。

 でも虫酔い草のシロップを飲んでも、こんなふうに、目の前がピンク色には染まらない。
 まるで、満開の桜の中にいるようで、心が勝手に浮き足立って、なのに、ちょっぴりせつないような感じは。

 ふっと、幼馴染の篤との思い出がほたるの頭に浮かんだ。
 中学生の頃、自転車を押す篤と二人並んで下校した日のこと。
 図書館の自習机にいきなり篤が現れた時の気持ち。

 あの時と同じ、胸のときめきが、ほたるの心を支配していく。

「ほたるちゃん」 
 とろけるような甘い男の人の声が、自分を呼んだ。

 ふと、見ると、目の前に神主さんのような着物を着た人が立っていた。
 碧ちゃんのワンピとよく似た、鮮やかな水黄緑色の生地の着物だった。袖口と袴の上には、金の糸で楕円形の模様も刺繍されている。
 その人は、白いモフモフっとした巨大扇子で顔をすっぽり隠していた。

 その巨大扇子をすすっと下ろして露になった顔に、ほたるは息を飲んだ。
 くりっと大きな二重が魅力的な、童顔甘甘マスクの青年。
 とろけるようなハニー顔イケメンだった。

 碧ちゃんのようにカチューシャで前髪を全上げしている。それが超絶似合っている。すっごい小顔。
 向尸井さんやアキアカネさんと同じ系統の、人間を超越しちゃったような完璧に超絶なイケメンに、ほたるはぽーっと見惚れた。

(てゆーか、碧ちゃんと同じカチューシャ)
 同じ店で買ったのかな。と、ぽうっと考える。

「ほたるちゃん」
 ほたるの耳元で、ハニー顔イケメンが囁いた。

「僕とつがいになってくれる?」
「はい…………え? つがい??」
 こくりと頷きかけたほたるに、ハニー顔イケメンがキラキラ迫る。

「わっ!!」
 少女漫画並みの甘々シチュエーション。
 しかし、恋に免疫のないほたるの頭は、処理不能。ねじがぴんっと外れた。

「ぐえっ」
 刹那、カエルがつぶれたような声がした。
 気が付けば、ハニー顔イケメンに全力でけりを見舞っていた。

「は! す、すいません! つい」
(やってしまった!)と、ほたるは慌てて頭を下げる。

「いったぁ、もう~、ほたるちゃん怪力ぃ~」
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