ようこそ、むし屋へ  ~深山ほたるの初恋物語~

箕面四季

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むし屋

初恋のおわり

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 真っ白い空間に立つ、ほたると篤の間にはちょっとだけ距離があった。

 ほたるが手を伸ばしても、わずかに篤に届かないようなギリギリの距離。

 篤は、近くて遠い場所からほたるを見つめていた。

「オレも、ほたるが好きだ」と、篤は悲しそうに言う。

「でもそれは、Likeの好きでLoveじゃない」
「……そっか」

「ごめん」
「ううん、ありがとう篤」

 言いながら涙がこぼれた。

 わかっていたはずなのに、苦しくて、苦くて、痛い。
 フラれるって、すごく痛い。

 でも、それでも言えて良かった。
 これが幻想だったとしても、それでも、やっと言えた。
 やっと……私の初恋が終わる。

 改めて、三回も告白した紗良はすごいなと思う。
 だから篤は紗良を選んだんだ。

「ちゃんと失恋できてよかった」と、ほたるは涙を拭って笑った。

 困ったように微笑む篤は、むしの創り出した幻想だ。
 本人に伝えられたら、もっと良かったのに。

 その気持ちだけは、一生の後悔として残り続けるかもしれないな、とほたるは思う。

「フローライトのネックレス、似合ってる」
 篤がほたるの胸元を見つめて微笑んでいる。

「篤のお母さんから貰ったの。別名蛍石だから、あたしへのプレゼントじゃないかって」
「それ、採掘するのかなり大変だったんだぞ。感謝しろよ」

 篤が白い歯を見せてにかりと笑う。

「そういや、チーム田園のみんなの分もあるんだけど。ほたる経由で渡してくんない?」
「いいよ。ちょうど今日みんなと会う約束してるし……」

(あれ? なんかおかしくない?)

「マジ? 橘さんにはブルーサファイアのネックレスなんだ。ブルーサファイアは身につけると冷静に物事を判断できる効果があると言われてるんだよ。情熱が宝石言葉のルビーと相性がいいんだけど、橘さんって、なんかルビーっぽいだろ。情熱的で、思い立ったら後先考えず即行動で、失敗しちゃう、みたいな」
「……確かに。ブルーサファイア、紗良にぴったりかも……って、やっぱりおかしい」

「何が?」
「だって、あたし、ブルーサファイアの宝石言葉とか初めて聞いた」

「? 宝石に興味なきゃ宝石言葉とか知らないだろ」
「だから変なの! これってあたしの中のむしが創り出した幻なのに、なんであたしの知らない情報が出てくるの?」

「幻をご覧になっているのではありませんよ」
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