ようこそ、むし屋へ  ~深山ほたるの初恋物語~

箕面四季

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ほたるの記憶 ~中学生編~

紗良が気に入らない

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 運動神経抜群の篤は、何故か美術部に入部した。

 この決断にクラス中がざわついて、担任の先生すら「もう一度よく考えたら」と説得に走ったとか走らないとか。それくらい衝撃的だった。

「篤君、運動神経いいのに、あえて美術部を選ぶところが素敵だよね、ほたるちゃん」
「え~。意味不明なだけじゃない?」
 紗良の笑顔にほたるは興味ない、という風を装う。

 調理室の窓の外で、アカトンボが舞っている。
 二学期が始まって、秋も深まりつつある今日この頃。中学一年生は新しいことが目白押しで、あっという間に季節が過ぎ去っていったな、と、クッキング部でクッキー生地を半分ずつボールに分けながら思う。

 同じくクッキング部の紗良が、ほたるが二つに分けた生地の一方に抹茶パウダーを混ぜながら「でも篤君、美術部サボってるのよ。それで文化祭に出す作品できてなくて『代わりに作ってくれない?』って、私に言ってくるの。私、絵が下手なのにね」と嬉しそうに困っている。

 将来の夢が幼稚園教諭か保育士の紗良は、低カロリーで子供たちが喜ぶようなお菓子を作りたいと、クッキング部に入部。
 ももちゃんは大喜び。
 まあ、紗良目当てにクッキング部に入部する思春期男子はさすがにいなくて目論見は外れたのだけれど。

 とはいえクッキング部は女子に好評で、結構部員は集まった。
 部長は、もちろん、ももちゃん。部員は同学年女子。和気あいあいの楽しい部活だ。

「部長~、ここはどうするんですか?」
「ちょっと待ってねん」

 今やすっかり部長が板についているももちゃんは、調理室のテーブルを忙しく飛び回っている。
 料理研究家になるという夢までできて、最近のももちゃんは眩しいくらいに輝いていて、ちょっと羨ましい。

(あたしも何か夢を見つけなきゃ)

 紗良の隣で、卵白をハンドミキサーで泡立てながら、ほたるは悶々とする。

「でね、篤君がね」

 紗良が篤の話をするから調理に集中できない。
 紗良が馴れ馴れしく「篤君」と呼ぶのが気に入らない。
 自分の中にやさぐれた悪魔が棲んでいる。

(篤がサボってることくらい、あたしだって知ってるもん)

 美術部に入部した篤は、部室に荷物だけ置いて図書室に入り浸っていると、同じクラスの美術部の和田さんが相談してきたから。
 美術部は文化祭に向けての作品づくりがあり、夏休みも活動日があったが、篤だけ来なかったらしい。

「滝沢君だけ作品ができてないの。もう文化祭まで時間ないから先生も困ってて。幼馴染みの深山さんから部活来るように説得してくれないかな」

 そう和田さんに頼まれたのは最近のことだ。

(それにあたしは、篤のお母さんにも篤のことを頼まれてるんだから)
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