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ほたるの記憶 ~小学生編~
あたしの世界
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[ほたる がっこう まてる]
『どう? 見えた? ちょっと待って。順番に変わ……』
誰かが篤の携帯電話をひったくり『もしもし』と電話の声が変わった。
「紗良?」
『ごめんね、ほたるちゃん。文字、間違えちゃった。【まってる】、の、小さい【つ】を、私が入れ忘れちゃったの』
背後でさなえちゃんが「紗良、今そこ重要じゃないから」とツッコミを入れている。
『もしもし、ほたるっち? あたしよん。ももちゃんだよん。学校で待ってるよん。って言ってもうちらクラス違うけどね』
かして、と、さなえちゃんがももちゃんから携帯を奪い取るのが見えた。
『ま、そういうことだから、気が向いたら学校来なよ。あたしは別に学校だけが人生じゃないと思ってるけど、世の中って案外面倒くさいからさ』
『あ、こんちは。オレ、大地っす。えっと、その。だから、あのですね』
『もう、あんたは黙ってて。ごめん、人手足りなくて呼んだだけだから』
わちゃわちゃしているみんなから携帯を取りあげ、篤が、うほんと咳払いをする。
『とにかく、オレらと、あと耕作さんも、ほたるを心配してるってことで』
「耕作さん?」
『この田んぼの持ち主。オレの死んだじいちゃんが通ってた、喫茶『ボブマーリー』のマスター。ほたるのこと話したら、蜻蛉さんのひ孫なら、ひと肌脱ぎましょうって、田んぼとか道具とか貸してくれたんだ。結局、稲刈りも手伝わされたけど。聞いてる?』
「……うん」
薄暗かった空に、赤みがさしはじめた。
『子供だったほっちゃんも広い世界に飛び出した』
ひいじいじ。
「待ってるからな、ほたる」
篤の、目の下のえくぼが見える気がした。
『ほっちゃん、禍福は糾える縄の如しじゃ』
「ありがとう、みんな」
双眼鏡越しに、友達が、ジャンプしながら両手を振ってくれていた。
みんなの背中から希望に満ちた光がこぼれて、世界を明るく彩っていく。
これが、あたしの世界。
みんなが学校に行くのを見送って双眼鏡を外すと、夢で見たのとそっくりな黒トンボがすいーと、ほたるの目線を通過した。
「あ」
慌てて目で追ったけれど、見失ってしまった。
きっと、ひいじいじがお別れに来てくれたんだと思った。
「さよなら。ありがとう、ひいじいじ」
まだ胸は痛むけれど、もうウジウジはしないよ。と心の中でひいじいじに話しかけた。
ひいじいじが会いたかった人は、ひいおばあちゃんかな。
着物姿ではにかむ目のクリッとした女の人の写真を思い出して(ひいじいじがアカネさんに会えますように)と、ほたるは祈った。
そういえば、あの写真を見せてもらったあと、ほたるはおばあちゃんに「ひいおばあちゃんはどんな人だった?」と尋ねたけれど「さあ」とおばあちゃんは首を傾げた。
「ひいおばあちゃんは、おばあちゃんを産んですぐに死んじゃったからよう知らんのよ。ひいじいじは綺麗な人だったって言ってたけどねぇ。ひいじいじもおばあちゃんも人並みの顔だし、写真もないから、実際のところわからんねぇ」
不思議なことに、アカネさんの写真をおばあちゃんは見たことがないようだった。
そういえばあの写真は、どこへ行ったんだろう。
愛読書から若かりしひいじいじの写真を見つけたおばあちゃんは、アカネさんの写真については何も言っていなかった。
あとで、ひいじいじの本を見てみようかな、とほたるは思った。
『どう? 見えた? ちょっと待って。順番に変わ……』
誰かが篤の携帯電話をひったくり『もしもし』と電話の声が変わった。
「紗良?」
『ごめんね、ほたるちゃん。文字、間違えちゃった。【まってる】、の、小さい【つ】を、私が入れ忘れちゃったの』
背後でさなえちゃんが「紗良、今そこ重要じゃないから」とツッコミを入れている。
『もしもし、ほたるっち? あたしよん。ももちゃんだよん。学校で待ってるよん。って言ってもうちらクラス違うけどね』
かして、と、さなえちゃんがももちゃんから携帯を奪い取るのが見えた。
『ま、そういうことだから、気が向いたら学校来なよ。あたしは別に学校だけが人生じゃないと思ってるけど、世の中って案外面倒くさいからさ』
『あ、こんちは。オレ、大地っす。えっと、その。だから、あのですね』
『もう、あんたは黙ってて。ごめん、人手足りなくて呼んだだけだから』
わちゃわちゃしているみんなから携帯を取りあげ、篤が、うほんと咳払いをする。
『とにかく、オレらと、あと耕作さんも、ほたるを心配してるってことで』
「耕作さん?」
『この田んぼの持ち主。オレの死んだじいちゃんが通ってた、喫茶『ボブマーリー』のマスター。ほたるのこと話したら、蜻蛉さんのひ孫なら、ひと肌脱ぎましょうって、田んぼとか道具とか貸してくれたんだ。結局、稲刈りも手伝わされたけど。聞いてる?』
「……うん」
薄暗かった空に、赤みがさしはじめた。
『子供だったほっちゃんも広い世界に飛び出した』
ひいじいじ。
「待ってるからな、ほたる」
篤の、目の下のえくぼが見える気がした。
『ほっちゃん、禍福は糾える縄の如しじゃ』
「ありがとう、みんな」
双眼鏡越しに、友達が、ジャンプしながら両手を振ってくれていた。
みんなの背中から希望に満ちた光がこぼれて、世界を明るく彩っていく。
これが、あたしの世界。
みんなが学校に行くのを見送って双眼鏡を外すと、夢で見たのとそっくりな黒トンボがすいーと、ほたるの目線を通過した。
「あ」
慌てて目で追ったけれど、見失ってしまった。
きっと、ひいじいじがお別れに来てくれたんだと思った。
「さよなら。ありがとう、ひいじいじ」
まだ胸は痛むけれど、もうウジウジはしないよ。と心の中でひいじいじに話しかけた。
ひいじいじが会いたかった人は、ひいおばあちゃんかな。
着物姿ではにかむ目のクリッとした女の人の写真を思い出して(ひいじいじがアカネさんに会えますように)と、ほたるは祈った。
そういえば、あの写真を見せてもらったあと、ほたるはおばあちゃんに「ひいおばあちゃんはどんな人だった?」と尋ねたけれど「さあ」とおばあちゃんは首を傾げた。
「ひいおばあちゃんは、おばあちゃんを産んですぐに死んじゃったからよう知らんのよ。ひいじいじは綺麗な人だったって言ってたけどねぇ。ひいじいじもおばあちゃんも人並みの顔だし、写真もないから、実際のところわからんねぇ」
不思議なことに、アカネさんの写真をおばあちゃんは見たことがないようだった。
そういえばあの写真は、どこへ行ったんだろう。
愛読書から若かりしひいじいじの写真を見つけたおばあちゃんは、アカネさんの写真については何も言っていなかった。
あとで、ひいじいじの本を見てみようかな、とほたるは思った。
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