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ほたるの記憶 ~小学生編~
篤からの電話
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コンコン。
「ほたる、起きてる? 入るわよ」
布団に潜り込むのと同時に、部屋のドアが開いて電話の子機を持ったほたるの母が「あっくんから電話」と受話器を差し出してきた。
「篤?」
ほたるが子機を受け取っても、ほたるの母はニヤニヤしたまま動こうとしない。
「電話できないから出てって」
「はいはい、わかったわよ。今度遊びにおいでって、あっくんに言っといて」とほたるの母は意味不明なウィンクをして、やっと去って行った。
こほん、と、ほたるは小さく咳払いをする。
緊張気味に「もしもし」と小さく言った。声がちょっとかすれた。
『……うす、あの、オレ、篤だけど』
電話越しの篤も、ちょっとぎこちない。
「うん」
『……今、ほたるの部屋?』
「うん」
『ほたる、双眼鏡とか持ってる?』
「双眼鏡?」
ほたるは机の引き出しの一番下を開いて「あるけど」と応えた。
真鍮製の双眼鏡。まだ幼稚園に通っている頃、ひいじいじからもらった宝物。
辛い幼稚園を頑張ったほたるのご褒美に、ひいじいじは時々『探検』へ連れて行ってくれた。
この双眼鏡は、その時のものだった。
『ほっちゃん隊長、本日はどこを探検するでありますか?』
ずしりと、ひっくり返りそうに重い双眼鏡を首からぶら下げたほたるが隊長で、ひいじいじは二等兵だった。
二人で近くの林とか田んぼとか、いろいろ散策した。
あの頃は、ひいじいじも歩き回れたのに。
また涙がじわりと滲んでくる。と、再び受話器から篤の声がした。
『双眼鏡で窓から田んぼ見える? 通学路の方』
「ちょっと待って」
机の脇の小窓を開くと、早朝の冷たい風が入ってきた。双眼鏡を両目にあてる。
空はまだ仄暗い。
ピントを少しずつ調整していく。次第に視界がはっきりしてきた。
『見える?』
ランドセルを背負った小さな人影が手を振っている。篤だ。
それから、紗良とももちゃんとさなえちゃんもいる。
あと、もう一人、男子がいるみたいだけど。
「見えた」
『見えるって。せーの』
みんなが一斉に同じ田んぼを指差した。
ところどころ狩り残しがある変な田んぼ……
「あ!」と、ほたるは目を見開いた。
「ほたる、起きてる? 入るわよ」
布団に潜り込むのと同時に、部屋のドアが開いて電話の子機を持ったほたるの母が「あっくんから電話」と受話器を差し出してきた。
「篤?」
ほたるが子機を受け取っても、ほたるの母はニヤニヤしたまま動こうとしない。
「電話できないから出てって」
「はいはい、わかったわよ。今度遊びにおいでって、あっくんに言っといて」とほたるの母は意味不明なウィンクをして、やっと去って行った。
こほん、と、ほたるは小さく咳払いをする。
緊張気味に「もしもし」と小さく言った。声がちょっとかすれた。
『……うす、あの、オレ、篤だけど』
電話越しの篤も、ちょっとぎこちない。
「うん」
『……今、ほたるの部屋?』
「うん」
『ほたる、双眼鏡とか持ってる?』
「双眼鏡?」
ほたるは机の引き出しの一番下を開いて「あるけど」と応えた。
真鍮製の双眼鏡。まだ幼稚園に通っている頃、ひいじいじからもらった宝物。
辛い幼稚園を頑張ったほたるのご褒美に、ひいじいじは時々『探検』へ連れて行ってくれた。
この双眼鏡は、その時のものだった。
『ほっちゃん隊長、本日はどこを探検するでありますか?』
ずしりと、ひっくり返りそうに重い双眼鏡を首からぶら下げたほたるが隊長で、ひいじいじは二等兵だった。
二人で近くの林とか田んぼとか、いろいろ散策した。
あの頃は、ひいじいじも歩き回れたのに。
また涙がじわりと滲んでくる。と、再び受話器から篤の声がした。
『双眼鏡で窓から田んぼ見える? 通学路の方』
「ちょっと待って」
机の脇の小窓を開くと、早朝の冷たい風が入ってきた。双眼鏡を両目にあてる。
空はまだ仄暗い。
ピントを少しずつ調整していく。次第に視界がはっきりしてきた。
『見える?』
ランドセルを背負った小さな人影が手を振っている。篤だ。
それから、紗良とももちゃんとさなえちゃんもいる。
あと、もう一人、男子がいるみたいだけど。
「見えた」
『見えるって。せーの』
みんなが一斉に同じ田んぼを指差した。
ところどころ狩り残しがある変な田んぼ……
「あ!」と、ほたるは目を見開いた。
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