ようこそ、むし屋へ  ~深山ほたるの初恋物語~

箕面四季

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タソガレドキ

禍福は糾える縄の如し

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「うふふ」
 楽しくなって集合時間までぶらぶら散歩でもしようかしら。と、駅舎を出た。

「あれー。まだ昼前なのに夕方みたい~。ま、いっか」

 幻想的なオレンジ色の空の下、ご機嫌に歩いていたら気持ちの良い霧雨まで降り始めた。ますます陽気になっていると『蜻蛉神社』と矢印付きの小さな看板を見つけた。

「ひいじいじと同じ名前だぁ」
(あたし、ひいじいじっこだったのよねー)と、吸い寄せられるように神社の方へ向かっていたらイケメン死神に呼び止められたのである。

 ほたるはフローライトのネックレスをきゅっと握りしめる。
「死神さん、禍福は糾える縄の如しって、知ってますか?」

「死神?」と、イケメン死神は小さな顔を横に傾げた後「確か、幸福と不幸は、より合わせた縄のように交互に訪れる、と、いう意味だったかな。そんなようなことを僕の知人が言っていた気がするね」と微笑んだ。

「あたしのひいじいじが、よく言ってた言葉なんですけど……あたしね、中学生の頃に初恋の人を失ったんです。これって禍福の禍でしょ? で、そのあとちゃんと福もあったんです。高校も楽しかったし、大学にも受かって、憧れの一人暮らしができて、でも」

 胸がつきんと痛んだ。

 それでも涙は出ないのは、それ程の年月が経ったということかもしれない。

「でもね、やっぱり、ずっとあたしの中では禍が優っていて、モヤモヤするんです。これってどうしたらいいんでしょう」

 死神の赤茶色い瞳が、じっとほたるを見つめる。

 ひっく。と、小さなしゃっくりが出た。

「溜めてしまうと巣食ってしまうよ」
 ふいに、死神の大きな手がほたるの頬を包み込む。
 いきなりのことにドキリとして、しゃっくりがとまった。

 黒い丸縁メガネの内側の、大きくくっきりした赤茶色の瞳は透き通っていて、吸い込まれそうだ。
 こんな綺麗な人がこの世にいるなんて。

(これって、やっぱり夢?)
 だとしたら、いつからが夢なのだろう。

(この人、誰かに似ている気がする)
 ドキドキしながらそう思った時。

「僕に見せてごらん。君の物語を」と、死神は妖艶に微笑んだのだった。
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