82 / 84
【スピンオフ 秋山柚葉、家出する】
【本当の気持ち】
しおりを挟む
ドキドキと、鼓動が再び速くなっていく。
すごくすごく緊張して、軍手の中の手がどんどん冷たくなっていく。
「あのね、私は、私なの。私は秋山柚葉で、15歳で、夏目と秋山と春野のおじいちゃんおばあちゃんの孫で、お父さんとお母さんの子供で、秋山柚樹の12歳離れた妹で……」
上手く、言えない。でも、でも。
すう~っと、思いっきり冷たい空気を吸い込んだ。
「私は、他の誰かじゃない、私なの! お兄ちゃんには、他の誰かじゃなくて、私を見て欲しいの」
言った瞬間、涙がポロリと一粒落ちて、慌てて瞼をごしごし拭う。
お兄ちゃんに聞いてほしかったのに、やっぱり言わなきゃよかったと、もう後悔している。
お兄ちゃんは、誰かに似ている私のことが好きかもしれないのに。
唇を噛みしめて、俯きながら涙を堪えるのが精一杯だった。
パチパチパチっと、やけに焚火の爆ぜる音が大きく聞こえていた。
ふと、軍手を脱いだお兄ちゃんの手が頭上に降りてきて、ぐりっと乱暴に柚葉を撫でた。
顔を上げると、茶色い瞳があった。あったかい、ホッとする焚火みたいな優しい目。
お兄ちゃんは微笑んで言った。
「ごめんな。柚葉に辛い思いをさせてたんだな。痛かったな。頑張ったな」
その瞬間、涙と鼻水がぶわーーーーーと溢れた。
「おにいぃぃぃ~ちゃーん」
柚葉は、がしっとお兄ちゃんにしがみついて、お兄ちゃんの高そうなコートを涙と鼻水まみれにしながら「浴衣、ごめんなさい。お兄ちゃん、ごめんなさい」と何度も何度も謝る。
「柚葉は何も悪くないよ」と言うお兄ちゃんのコートに顔をこすりつけ、ぐりぐり頭を横に振る。
スタイリストになって、お兄ちゃんの役に立ちたいっていう夢は、本気の本気だ。
でも。だけど。
本当は、ママの浴衣じゃなくて良かったのだ。
サイズアウトして着れなくなった自分の服をリメイクすれば良かった。
ママの浴衣を使ったのは、たぶん、ただの嫉妬だ。
完成したトップスは、お母さんの言う通り全然上手じゃない。
どんどん想像とかけ離れていく無残な浴衣を何とか形にしようとするのが精一杯で、やればやるほど罪悪感が募っていった。それを、見て見ぬふりしてやりすごした。
だけど本当は、誰よりも自分がわかってる。
お兄ちゃんの大事なモノを、私は台無しにしてしまった。
すごくすごくヒドイことをしたって、自分が一番わかっていた。
だけど、もう引き返せなくて。
くくっと、ふいにお兄ちゃんが笑って、柚葉の背中をさすりながら、夏目のおじいちゃんみたいな口調で言った。
「いいぞ! 泣け泣け! 全部出せ」
すごくすごく緊張して、軍手の中の手がどんどん冷たくなっていく。
「あのね、私は、私なの。私は秋山柚葉で、15歳で、夏目と秋山と春野のおじいちゃんおばあちゃんの孫で、お父さんとお母さんの子供で、秋山柚樹の12歳離れた妹で……」
上手く、言えない。でも、でも。
すう~っと、思いっきり冷たい空気を吸い込んだ。
「私は、他の誰かじゃない、私なの! お兄ちゃんには、他の誰かじゃなくて、私を見て欲しいの」
言った瞬間、涙がポロリと一粒落ちて、慌てて瞼をごしごし拭う。
お兄ちゃんに聞いてほしかったのに、やっぱり言わなきゃよかったと、もう後悔している。
お兄ちゃんは、誰かに似ている私のことが好きかもしれないのに。
唇を噛みしめて、俯きながら涙を堪えるのが精一杯だった。
パチパチパチっと、やけに焚火の爆ぜる音が大きく聞こえていた。
ふと、軍手を脱いだお兄ちゃんの手が頭上に降りてきて、ぐりっと乱暴に柚葉を撫でた。
顔を上げると、茶色い瞳があった。あったかい、ホッとする焚火みたいな優しい目。
お兄ちゃんは微笑んで言った。
「ごめんな。柚葉に辛い思いをさせてたんだな。痛かったな。頑張ったな」
その瞬間、涙と鼻水がぶわーーーーーと溢れた。
「おにいぃぃぃ~ちゃーん」
柚葉は、がしっとお兄ちゃんにしがみついて、お兄ちゃんの高そうなコートを涙と鼻水まみれにしながら「浴衣、ごめんなさい。お兄ちゃん、ごめんなさい」と何度も何度も謝る。
「柚葉は何も悪くないよ」と言うお兄ちゃんのコートに顔をこすりつけ、ぐりぐり頭を横に振る。
スタイリストになって、お兄ちゃんの役に立ちたいっていう夢は、本気の本気だ。
でも。だけど。
本当は、ママの浴衣じゃなくて良かったのだ。
サイズアウトして着れなくなった自分の服をリメイクすれば良かった。
ママの浴衣を使ったのは、たぶん、ただの嫉妬だ。
完成したトップスは、お母さんの言う通り全然上手じゃない。
どんどん想像とかけ離れていく無残な浴衣を何とか形にしようとするのが精一杯で、やればやるほど罪悪感が募っていった。それを、見て見ぬふりしてやりすごした。
だけど本当は、誰よりも自分がわかってる。
お兄ちゃんの大事なモノを、私は台無しにしてしまった。
すごくすごくヒドイことをしたって、自分が一番わかっていた。
だけど、もう引き返せなくて。
くくっと、ふいにお兄ちゃんが笑って、柚葉の背中をさすりながら、夏目のおじいちゃんみたいな口調で言った。
「いいぞ! 泣け泣け! 全部出せ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
猫スタ募集中!(=^・・^=)
五十鈴りく
ライト文芸
僕には動物と話せるという特技がある。この特技をいかして、猫カフェをオープンすることにした。というわけで、一緒に働いてくれる猫スタッフを募集すると、噂を聞きつけた猫たちが僕のもとにやってくる。僕はそんな猫たちからここへ来た経緯を聞くのだけれど――
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
伊緒さんの食べものがたり
三條すずしろ
ライト文芸
いっしょだと、なんだっておいしいーー。
伊緒さんだって、たまにはインスタントで済ませたり、旅先の名物に舌鼓を打ったりもするのです……。
そんな「手作らず」な料理の数々も、今度のご飯の大事なヒント。
いっしょに食べると、なんだっておいしい!
『伊緒さんのお嫁ご飯』からほんの少し未来の、異なる時間軸のお話です。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にても公開中です。
『伊緒さんのお嫁ご飯〜番外・手作らず編〜』改題。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
カメラとわたしと自衛官〜不憫なんて言わせない!カメラ女子と自衛官の馴れ初め話〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
「かっこいい……あのボディ。かわいい……そのお尻」ため息を漏らすその視線の先に何がある?
たまたま居合わせたイベント会場で空を仰ぐと、白い煙がお花を描いた。見上げた全員が歓声をあげる。それが自衛隊のイベントとは知らず、気づくとサイン会に巻き込まれて並んでいた。
ひょんな事がきっかけで、カメラにはまる女の子がファインダー越しに見つけた世界。なぜかいつもそこに貴方がいた。恋愛に鈍感でも被写体には敏感です。恋愛よりもカメラが大事! そんか彼女を気長に粘り強く自分のテリトリーに引き込みたい陸上自衛隊員との恋のお話?
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
※もちろん、フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる