81 / 84
【スピンオフ 秋山柚葉、家出する】
【叶えたい夢】
しおりを挟む
浴衣リメイクのトップスを見たお兄ちゃんは、怒ることも、驚くこともしなかった。
変わらない穏やかな瞳のまま、ただ静かに、柚葉を見ている。
(お母さんかおじいちゃんから、私がママの浴衣で洋服を作ったこと、知らされてたんだろうな)
動じないお兄ちゃん。でも心の中では、すごくすごく悲しんでいるかもしれない。
『柚葉に似合うだろうなって、ずっと昔から思ってたよ』
特急列車に揺られながら見たあの夢が、浮かぶ。
それに、お兄ちゃんは、私が聡明高校へ行くことを密かに望んでいる。
本当はそれも気づいている。でも、私はもう……
「私、聡明高校には行かない。高卒の資格が取れてファッションとかヘアメイクも学べる専門学校に行きたいの。いろいろ調べて、行きたい学校も決まってる」
お兄ちゃんはしばし考えこんでから、首を傾げた。
「……それは、高校を卒業した後じゃダメなのか? 高校を卒業してから専門学校に入ることも」
「そんなに待てないの! 私、絶対に叶えたい夢があるから」
「叶えたい夢?」
お兄ちゃんを見つめて、柚葉はこっくりと頷いた。
「私、お兄ちゃんの、春芽柚のスタイリストになりたいの! 秋山柚樹の妹の秋山柚葉として」
「え……」
全く予想していなかったのか、お兄ちゃんは本気で驚いていた。
鳩が豆鉄砲食ったような顔。こんな顔のお兄ちゃんは初めて見た。
「私、プロのスタイリストになって、お兄ちゃんの役に立ちたい! そのためには、少しでも早く業界のことを学んで独立したいの! だってお兄ちゃんと私は12歳も歳が離れてるんだよ。高校卒業してから専門学校に入るとか悠長なことやってたら、お兄ちゃん引退しちゃうじゃん」
「……」
目を真ん丸にして柚葉を見ていたお兄ちゃんが、やがて「ぷっ」とふき出した。
くっくっくっく、とお腹を抱えて笑っている。
「何がおかしいの? 私は本気で」
柚葉の前に手を掲げて「違う、違う」と、お兄ちゃんが目に涙を溜めながら釈明する。
「数年後にはオレ、芸能界引退の危機かよって思ったら、変につぼった」
「……あ」
いろいろ失礼な発言だったと気が付いて「そうじゃなくて」と、柚葉は真っ赤になる。
「わかってる。大丈夫だよ」
お兄ちゃんはふうと、深く息を吐いてから、もう一度、じっくりと柚葉の浴衣リメイクに目を通した。
「なるほど。専門学校に進みたいっていう本気度を、その浴衣に込めたってわけか」
「それもあるけど、一番は、これを着た私をお兄ちゃんに見せたかったの」
「?」
意図を飲み込めず首を傾げるお兄ちゃんを、柚葉は見つめた。
変わらない穏やかな瞳のまま、ただ静かに、柚葉を見ている。
(お母さんかおじいちゃんから、私がママの浴衣で洋服を作ったこと、知らされてたんだろうな)
動じないお兄ちゃん。でも心の中では、すごくすごく悲しんでいるかもしれない。
『柚葉に似合うだろうなって、ずっと昔から思ってたよ』
特急列車に揺られながら見たあの夢が、浮かぶ。
それに、お兄ちゃんは、私が聡明高校へ行くことを密かに望んでいる。
本当はそれも気づいている。でも、私はもう……
「私、聡明高校には行かない。高卒の資格が取れてファッションとかヘアメイクも学べる専門学校に行きたいの。いろいろ調べて、行きたい学校も決まってる」
お兄ちゃんはしばし考えこんでから、首を傾げた。
「……それは、高校を卒業した後じゃダメなのか? 高校を卒業してから専門学校に入ることも」
「そんなに待てないの! 私、絶対に叶えたい夢があるから」
「叶えたい夢?」
お兄ちゃんを見つめて、柚葉はこっくりと頷いた。
「私、お兄ちゃんの、春芽柚のスタイリストになりたいの! 秋山柚樹の妹の秋山柚葉として」
「え……」
全く予想していなかったのか、お兄ちゃんは本気で驚いていた。
鳩が豆鉄砲食ったような顔。こんな顔のお兄ちゃんは初めて見た。
「私、プロのスタイリストになって、お兄ちゃんの役に立ちたい! そのためには、少しでも早く業界のことを学んで独立したいの! だってお兄ちゃんと私は12歳も歳が離れてるんだよ。高校卒業してから専門学校に入るとか悠長なことやってたら、お兄ちゃん引退しちゃうじゃん」
「……」
目を真ん丸にして柚葉を見ていたお兄ちゃんが、やがて「ぷっ」とふき出した。
くっくっくっく、とお腹を抱えて笑っている。
「何がおかしいの? 私は本気で」
柚葉の前に手を掲げて「違う、違う」と、お兄ちゃんが目に涙を溜めながら釈明する。
「数年後にはオレ、芸能界引退の危機かよって思ったら、変につぼった」
「……あ」
いろいろ失礼な発言だったと気が付いて「そうじゃなくて」と、柚葉は真っ赤になる。
「わかってる。大丈夫だよ」
お兄ちゃんはふうと、深く息を吐いてから、もう一度、じっくりと柚葉の浴衣リメイクに目を通した。
「なるほど。専門学校に進みたいっていう本気度を、その浴衣に込めたってわけか」
「それもあるけど、一番は、これを着た私をお兄ちゃんに見せたかったの」
「?」
意図を飲み込めず首を傾げるお兄ちゃんを、柚葉は見つめた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
猫スタ募集中!(=^・・^=)
五十鈴りく
ライト文芸
僕には動物と話せるという特技がある。この特技をいかして、猫カフェをオープンすることにした。というわけで、一緒に働いてくれる猫スタッフを募集すると、噂を聞きつけた猫たちが僕のもとにやってくる。僕はそんな猫たちからここへ来た経緯を聞くのだけれど――
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
カメラとわたしと自衛官〜不憫なんて言わせない!カメラ女子と自衛官の馴れ初め話〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
「かっこいい……あのボディ。かわいい……そのお尻」ため息を漏らすその視線の先に何がある?
たまたま居合わせたイベント会場で空を仰ぐと、白い煙がお花を描いた。見上げた全員が歓声をあげる。それが自衛隊のイベントとは知らず、気づくとサイン会に巻き込まれて並んでいた。
ひょんな事がきっかけで、カメラにはまる女の子がファインダー越しに見つけた世界。なぜかいつもそこに貴方がいた。恋愛に鈍感でも被写体には敏感です。恋愛よりもカメラが大事! そんか彼女を気長に粘り強く自分のテリトリーに引き込みたい陸上自衛隊員との恋のお話?
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
※もちろん、フィクションです。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる