YUZU

箕面四季

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【奇跡の答えを探して】

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「それにしても、世の中には不思議なことがあるものねぇ」
 8年分の長い長いハグをたっぷりしたあとで、ママが感心するように言った。

 身体を離した途端、急激に恥ずかしさが込み上げた柚樹は、真っ赤になりながら「ま、まーね」と明後日の方向を向いて相槌を打つ。
 
 確かに、とても信じられないことが起きている。てゆーか、今でも夢じゃね? とか思う。

 でも、夢にしては、寒い。寒すぎる。
 頬とか耳とか、痛いくらい冷たいし、はあっと吐いた息が白いし。

 それこそ目が覚める寒空の下で、目の前にママが立っている。
 ママのことは信じられないけど、この寒さを夢にするには現実味が強すぎた。確かに、夢みたいな満点の星空ではあるけれども。

 てゆーか、既に一週間、オレは柚葉と一緒に過ごしてきたし。

 もし柚葉がオレの作り出した幻覚とか夢とか、そういうヤバめなアバターだったら、夏目のじいちゃんや遊園地の受付のお姉さん、その他もろもろの人たちが柚葉を見れたわけがない。
 そういや、小学校にも電話をかけてなかったっけ?

 つか、そもそもオレの作り出した幻なら、これまでの朝食はどうやって作ったんだって話になる。
 学校の調理実習以外、ほぼほぼ料理したことのないオレが、緑色のパンケーキだの、焼いたバナナだの、あんな変なもん逆立ちしたって作れるわけないじゃん。

 さっきの、柚子のキャベツ丼だってそうだ。

(柚子のキャベツ丼? 柚子のキャベツ丼、柚子のキャベツ丼……)

 柚の木に目をやりながら、柚樹は眉間にしわをよせ、考える。

「どうかしたの?」
「いや、なんか……、重要なことを思い出せそうな気が。もう、この辺まで来てるんだけど」

 この、超、超常現象で不可思議すぎる状況の、答えみたいなものが、一瞬、ふわっと、頭の中に浮かんだ気がしたんだけど。

「あ~~~~!!」

「な、なに? びっくりするじゃない!」
 目を丸くするママに「ちょ、ちょっと待ってて。シャベル取ってくる!」と柚樹は慌てて倉庫に向かった。

「え? ちょっと、柚樹?」
 柚樹は急いで倉庫を探したが、シャベルはどこにもない。

 そういえば小学校の芋ほりで使ったあと「洗ってから倉庫にしまってね」と母さんに言われて、面倒くさいから後にしようと、ビニール袋に入れたまま玄関の靴箱の中に突っ込んだんだと、思い出す。

 さっそく玄関に回って靴箱の奥の奥からそれを引っ張り出す。
 母さんに見つからないように、シューズの裏側に隠しておいたんだっけ。

 これにはさすがの母さんも気づかず、シャベルは袋に入った状態でそこにあった。そのせいで、柚樹はシャベルを隠したことすら忘れてしまっていたのだけれど。

(こうやって、モノをなくすんだなぁ)
 そんでもって必要な時に見つからなくて、母さんに叱られる。

(でも母さんが探すと、すぐ見つかるんだよな)
 なんでだろ、と考えながら玄関から外に出た柚樹は(そうだ)と、もう一度玄関に戻ったのだった。

「お待たせ!」
「ちょっとあんたねー、シャベル取りに行くのにどれだけ時間がかかって」

 ふくれっ面のママの背中に、柚樹は持ってきたキャメル色のトレンチコートをかけてやる。
 驚いて目をぱちくりさせるママに「母さんのコートだけど、まあ、ないよりマシだろ。さすがにこの寒さで浴衣は風邪ひくから」と、柚樹も黒のダウンジャケットに袖を通しながら笑った。

「なかなか気が利くようになったじゃない」
「……でも、そういう落ち着いた大人の服? ママには似合わなすぎて笑える」
 照れ隠しの憎まれ口をたたくと「なにを~」とママも照れながら怒ってみせた。

「で、シャベルは見つかったの?」
「うん。ちょっとわけあって靴箱に入れててさー」

「わけって……大体検討がつくわね」
 シャベルを取り出すためにビニール袋の縛りを解いていた柚樹は「あれ?」と首を傾げた。

「どうしたの?」
「いや……これ、学校の芋ほりで使って、洗って倉庫にしまうのがめんどくて袋に突っ込んだまま靴箱に隠し……しまってたんだけどさ。オレ、ちゃんと汚れないようにビニール袋二重にしてたみたい。すごくね?」

 深く考えずに、ちゃっかりビニール袋の件を自分の手柄にして柚の木の根元の土を掘り始めた柚樹。

(まったく)と、ママは苦笑する。
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