32 / 84
【柚葉の家出の原因】
しおりを挟む
朝食はワンプレートになっていた。
いちごとキウイのフルーツサンド、ミニトマト、ほうれん草とハムと目玉焼きのココット。
それからえのき茸のソテーっぽいもの。
フルーツサンドは生クリームの代わりにヨーグルトが塗ってあった。さっぱりしていて生クリームがあんまり好きじゃない柚樹はこっちの方が好きだなと思う。
ココットは母さんが土日の昼に作るものと似ていた。
そんでもってえのき茸!!
なめこのように、ぬめっとなめらかなのに、シャクシャクの食感がたまらない。味付けはバター醤油? にしてはちょっと酸っぱい。とにかく柚樹の好みの味。箸が進む。
「それねぇ、えのき茸をレンチンして、バターと味ぽんであえるだけなのよ」と柚葉が、柚樹を見ながら得意げに説明する。
「へえ。オレでも作れそう」
「もちろん、柚樹でもつくれ」
言いかけた柚葉は、ハッとしたように中庭に目をやった。
「? どうかした?」
「ううん……たまにはこういうブランチっぽいのもいいわよね。中庭を眺めながらのんびりと」
取り繕うように笑う柚葉。
「?」
変なの、と思ったけど、柚葉が変なのは今に始まったことじゃない。
(んなことより)
早く出かけたくて、身体がうずうずしている。
「ごちそうさま!」
あっという間に朝食を完食した柚樹は、さっさと食器を片付けにかかった。
(CCパーク、CCパーク)
わくわくが止まらない~
(おかしいな)
柚葉の後ろをのろのろついて行きながら、柚樹は顔をしかめる。
「どうしたの?」
「いや、別に」
そんなわけないよな。と、さっきから何度も自分に言い聞かせている。
何故なら、この先にあるのは、葦春公園だから。
この辺りではかなり広くて遊具も豊富な公園ではある。ではあるが、保育園児じゃあるまいし、超スッキリするとこが公園とか、ないない。
「つ~いたっ」
葦春公園だった。
「嘘だろ?」
「何が?」
軽い足取りで公園の中へ進んでいく柚葉に、柚樹は口を尖らせる。
「何がって、まさか公園で遊ぶつもりじゃないよな」
「遊ぶつもりだけど? ほら、ずっとやりたかったのよね、これ!」
大きなショルダーバッグに手を突っ込んで、「テレレレッテレーン! キャッチボール~」と、柚葉がグローブを取り出して掲げる。誰が買ったのか、物心ついた頃から土間の奥にあったやつだ。
(そういや確か、夢で……)
柚樹が夢のことを思い出そうとしていると「パスっとボールがミッドに吸い込まれると気持ちいいって言うじゃない。いい運動になるしスッキリするわよ~」と、柚葉がにっこり笑った。
「マジかよ……」
「とりあえずここにシートを広げてっと」
バッグには大きなレジャーシートまで入っていた。どうりでバッグがデカいわけだ。
「なんと、お茶とお弁当のご用意もございま~す!」
「マジか……」
今朝、部屋中に漂っていた美味しい匂いの正体はこれだったのか、と、柚樹は諦めのため息を吐いた。
「オレ、CCパークだと思ってたのに」
嘆く柚樹に、「なにそれ」と、柚葉が首を傾げる。
「正月オープンした超巨大な屋内遊園地! 知ってるだろ?」
「知らない」
「知らないって……」
今度は柚樹が首を傾げる。
「めっちゃCMしてるのに?」
最近はそうでもなくなったけど、夏休みくらいまでは結構テレビCMが流れていた。ファッションブランドが揃うアウトレットモールとか、大きな駅なんかにもポスターが貼ってあるし。
まあ、柚葉って女子高生のわりに、あんましファッションに興味なさげだけど。
「知らないものは知らないの」
柚葉がふてくされた顔をする。
(高校生でCCパーク知らないなんて変じゃね?)と、考え、柚樹はハッとした。
もしかして、と、唾を飲む。
(もしかして、親がテレビを観させてくれない系?)
すっかり忘れていたけど、柚葉は県内トップクラスの進学校に通っているんだった。
(つまり、家出の原因は、今流行りの教育虐待ってやつなんじゃ)
そう考えたら、ただの公園で子供みたいにはしゃぐ柚葉が、ものすご~く哀れに見えてくる。
うちもまあまあ、教育にうるさい方だけど、一応ゲームもできるし、時間制限付きだけどテレビもユーチューブも観れる。
(そういや、柚葉は高校生なのに、スマホ持ってないんだよな)
家に忘れたのかな、とも思ったけど、財布持ってるのにスマホ持ってないって、なんか逆な気がする。
中高生はスマホ命で財布を忘れても、スマホは忘れない……気がする。
オレだって今はキッズ携帯だけど、来年、中学校入学と同時にスマホデビューする約束は、取り付けてある。
柚葉の、一見、楽観的で、何も考えてなさそ~に見える顔の奥には、実は深刻な悩みが隠されていて、この明るさも現実逃避的なアレで……
柚葉の悲劇的な境遇に激しく同情した時、ふと見覚えのある人影を見た気がして、ぎょっとそちらに目を向けた。
真っ黒いパーカーのフードをかぶり、耳からイヤホンの線を垂らして、ベンチに座りながらスマホを眺めている中学生っぽい男子。
間違いない。朔太郎だ。
いちごとキウイのフルーツサンド、ミニトマト、ほうれん草とハムと目玉焼きのココット。
それからえのき茸のソテーっぽいもの。
フルーツサンドは生クリームの代わりにヨーグルトが塗ってあった。さっぱりしていて生クリームがあんまり好きじゃない柚樹はこっちの方が好きだなと思う。
ココットは母さんが土日の昼に作るものと似ていた。
そんでもってえのき茸!!
なめこのように、ぬめっとなめらかなのに、シャクシャクの食感がたまらない。味付けはバター醤油? にしてはちょっと酸っぱい。とにかく柚樹の好みの味。箸が進む。
「それねぇ、えのき茸をレンチンして、バターと味ぽんであえるだけなのよ」と柚葉が、柚樹を見ながら得意げに説明する。
「へえ。オレでも作れそう」
「もちろん、柚樹でもつくれ」
言いかけた柚葉は、ハッとしたように中庭に目をやった。
「? どうかした?」
「ううん……たまにはこういうブランチっぽいのもいいわよね。中庭を眺めながらのんびりと」
取り繕うように笑う柚葉。
「?」
変なの、と思ったけど、柚葉が変なのは今に始まったことじゃない。
(んなことより)
早く出かけたくて、身体がうずうずしている。
「ごちそうさま!」
あっという間に朝食を完食した柚樹は、さっさと食器を片付けにかかった。
(CCパーク、CCパーク)
わくわくが止まらない~
(おかしいな)
柚葉の後ろをのろのろついて行きながら、柚樹は顔をしかめる。
「どうしたの?」
「いや、別に」
そんなわけないよな。と、さっきから何度も自分に言い聞かせている。
何故なら、この先にあるのは、葦春公園だから。
この辺りではかなり広くて遊具も豊富な公園ではある。ではあるが、保育園児じゃあるまいし、超スッキリするとこが公園とか、ないない。
「つ~いたっ」
葦春公園だった。
「嘘だろ?」
「何が?」
軽い足取りで公園の中へ進んでいく柚葉に、柚樹は口を尖らせる。
「何がって、まさか公園で遊ぶつもりじゃないよな」
「遊ぶつもりだけど? ほら、ずっとやりたかったのよね、これ!」
大きなショルダーバッグに手を突っ込んで、「テレレレッテレーン! キャッチボール~」と、柚葉がグローブを取り出して掲げる。誰が買ったのか、物心ついた頃から土間の奥にあったやつだ。
(そういや確か、夢で……)
柚樹が夢のことを思い出そうとしていると「パスっとボールがミッドに吸い込まれると気持ちいいって言うじゃない。いい運動になるしスッキリするわよ~」と、柚葉がにっこり笑った。
「マジかよ……」
「とりあえずここにシートを広げてっと」
バッグには大きなレジャーシートまで入っていた。どうりでバッグがデカいわけだ。
「なんと、お茶とお弁当のご用意もございま~す!」
「マジか……」
今朝、部屋中に漂っていた美味しい匂いの正体はこれだったのか、と、柚樹は諦めのため息を吐いた。
「オレ、CCパークだと思ってたのに」
嘆く柚樹に、「なにそれ」と、柚葉が首を傾げる。
「正月オープンした超巨大な屋内遊園地! 知ってるだろ?」
「知らない」
「知らないって……」
今度は柚樹が首を傾げる。
「めっちゃCMしてるのに?」
最近はそうでもなくなったけど、夏休みくらいまでは結構テレビCMが流れていた。ファッションブランドが揃うアウトレットモールとか、大きな駅なんかにもポスターが貼ってあるし。
まあ、柚葉って女子高生のわりに、あんましファッションに興味なさげだけど。
「知らないものは知らないの」
柚葉がふてくされた顔をする。
(高校生でCCパーク知らないなんて変じゃね?)と、考え、柚樹はハッとした。
もしかして、と、唾を飲む。
(もしかして、親がテレビを観させてくれない系?)
すっかり忘れていたけど、柚葉は県内トップクラスの進学校に通っているんだった。
(つまり、家出の原因は、今流行りの教育虐待ってやつなんじゃ)
そう考えたら、ただの公園で子供みたいにはしゃぐ柚葉が、ものすご~く哀れに見えてくる。
うちもまあまあ、教育にうるさい方だけど、一応ゲームもできるし、時間制限付きだけどテレビもユーチューブも観れる。
(そういや、柚葉は高校生なのに、スマホ持ってないんだよな)
家に忘れたのかな、とも思ったけど、財布持ってるのにスマホ持ってないって、なんか逆な気がする。
中高生はスマホ命で財布を忘れても、スマホは忘れない……気がする。
オレだって今はキッズ携帯だけど、来年、中学校入学と同時にスマホデビューする約束は、取り付けてある。
柚葉の、一見、楽観的で、何も考えてなさそ~に見える顔の奥には、実は深刻な悩みが隠されていて、この明るさも現実逃避的なアレで……
柚葉の悲劇的な境遇に激しく同情した時、ふと見覚えのある人影を見た気がして、ぎょっとそちらに目を向けた。
真っ黒いパーカーのフードをかぶり、耳からイヤホンの線を垂らして、ベンチに座りながらスマホを眺めている中学生っぽい男子。
間違いない。朔太郎だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
猫スタ募集中!(=^・・^=)
五十鈴りく
ライト文芸
僕には動物と話せるという特技がある。この特技をいかして、猫カフェをオープンすることにした。というわけで、一緒に働いてくれる猫スタッフを募集すると、噂を聞きつけた猫たちが僕のもとにやってくる。僕はそんな猫たちからここへ来た経緯を聞くのだけれど――
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
伊緒さんの食べものがたり
三條すずしろ
ライト文芸
いっしょだと、なんだっておいしいーー。
伊緒さんだって、たまにはインスタントで済ませたり、旅先の名物に舌鼓を打ったりもするのです……。
そんな「手作らず」な料理の数々も、今度のご飯の大事なヒント。
いっしょに食べると、なんだっておいしい!
『伊緒さんのお嫁ご飯』からほんの少し未来の、異なる時間軸のお話です。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にても公開中です。
『伊緒さんのお嫁ご飯〜番外・手作らず編〜』改題。
みいちゃんといっしょ。
新道 梨果子
ライト文芸
お父さんとお母さんが離婚して半年。
お父さんが新しい恋人を家に連れて帰ってきた。
みいちゃんと呼んでね、というその派手な女の人は、あからさまにホステスだった。
そうして私、沙希と、みいちゃんとの生活が始まった。
――ねえ、お父さんがいなくなっても、みいちゃんと私は家族なの?
※ 「小説家になろう」(検索除外中)、「ノベマ!」にも掲載しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
カメラとわたしと自衛官〜不憫なんて言わせない!カメラ女子と自衛官の馴れ初め話〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
「かっこいい……あのボディ。かわいい……そのお尻」ため息を漏らすその視線の先に何がある?
たまたま居合わせたイベント会場で空を仰ぐと、白い煙がお花を描いた。見上げた全員が歓声をあげる。それが自衛隊のイベントとは知らず、気づくとサイン会に巻き込まれて並んでいた。
ひょんな事がきっかけで、カメラにはまる女の子がファインダー越しに見つけた世界。なぜかいつもそこに貴方がいた。恋愛に鈍感でも被写体には敏感です。恋愛よりもカメラが大事! そんか彼女を気長に粘り強く自分のテリトリーに引き込みたい陸上自衛隊員との恋のお話?
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
※もちろん、フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる