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箕面四季

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【柚葉の家出の原因】

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 朝食はワンプレートになっていた。
 いちごとキウイのフルーツサンド、ミニトマト、ほうれん草とハムと目玉焼きのココット。
 それからえのき茸のソテーっぽいもの。

 フルーツサンドは生クリームの代わりにヨーグルトが塗ってあった。さっぱりしていて生クリームがあんまり好きじゃない柚樹はこっちの方が好きだなと思う。
 ココットは母さんが土日の昼に作るものと似ていた。

 そんでもってえのき茸!!
 なめこのように、ぬめっとなめらかなのに、シャクシャクの食感がたまらない。味付けはバター醤油? にしてはちょっと酸っぱい。とにかく柚樹の好みの味。箸が進む。

「それねぇ、えのき茸をレンチンして、バターと味ぽんであえるだけなのよ」と柚葉が、柚樹を見ながら得意げに説明する。

「へえ。オレでも作れそう」
「もちろん、柚樹でもつくれ」
 言いかけた柚葉は、ハッとしたように中庭に目をやった。

「? どうかした?」
「ううん……たまにはこういうブランチっぽいのもいいわよね。中庭を眺めながらのんびりと」
 取り繕うように笑う柚葉。

「?」
 変なの、と思ったけど、柚葉が変なのは今に始まったことじゃない。

(んなことより)
 早く出かけたくて、身体がうずうずしている。

「ごちそうさま!」
 あっという間に朝食を完食した柚樹は、さっさと食器を片付けにかかった。

(CCパーク、CCパーク)
 わくわくが止まらない~




(おかしいな)
 柚葉の後ろをのろのろついて行きながら、柚樹は顔をしかめる。

「どうしたの?」
「いや、別に」
 そんなわけないよな。と、さっきから何度も自分に言い聞かせている。

 何故なら、この先にあるのは、葦春公園だから。
 この辺りではかなり広くて遊具も豊富な公園ではある。ではあるが、保育園児じゃあるまいし、超スッキリするとこが公園とか、ないない。

「つ~いたっ」
 葦春公園だった。

「嘘だろ?」
「何が?」
 軽い足取りで公園の中へ進んでいく柚葉に、柚樹は口を尖らせる。

「何がって、まさか公園で遊ぶつもりじゃないよな」
「遊ぶつもりだけど? ほら、ずっとやりたかったのよね、これ!」

 大きなショルダーバッグに手を突っ込んで、「テレレレッテレーン! キャッチボール~」と、柚葉がグローブを取り出して掲げる。誰が買ったのか、物心ついた頃から土間の奥にあったやつだ。

(そういや確か、夢で……)
 柚樹が夢のことを思い出そうとしていると「パスっとボールがミッドに吸い込まれると気持ちいいって言うじゃない。いい運動になるしスッキリするわよ~」と、柚葉がにっこり笑った。

「マジかよ……」
「とりあえずここにシートを広げてっと」
 バッグには大きなレジャーシートまで入っていた。どうりでバッグがデカいわけだ。

「なんと、お茶とお弁当のご用意もございま~す!」
「マジか……」
 今朝、部屋中に漂っていた美味しい匂いの正体はこれだったのか、と、柚樹は諦めのため息を吐いた。

「オレ、CCパークだと思ってたのに」
 嘆く柚樹に、「なにそれ」と、柚葉が首を傾げる。

「正月オープンした超巨大な屋内遊園地! 知ってるだろ?」
「知らない」

「知らないって……」
 今度は柚樹が首を傾げる。

「めっちゃCMしてるのに?」
 最近はそうでもなくなったけど、夏休みくらいまでは結構テレビCMが流れていた。ファッションブランドが揃うアウトレットモールとか、大きな駅なんかにもポスターが貼ってあるし。
 まあ、柚葉って女子高生のわりに、あんましファッションに興味なさげだけど。

「知らないものは知らないの」
 柚葉がふてくされた顔をする。

(高校生でCCパーク知らないなんて変じゃね?)と、考え、柚樹はハッとした。

 もしかして、と、唾を飲む。

(もしかして、親がテレビを観させてくれない系?)
 すっかり忘れていたけど、柚葉は県内トップクラスの進学校に通っているんだった。

(つまり、家出の原因は、今流行りの教育虐待ってやつなんじゃ)
 そう考えたら、ただの公園で子供みたいにはしゃぐ柚葉が、ものすご~く哀れに見えてくる。
 うちもまあまあ、教育にうるさい方だけど、一応ゲームもできるし、時間制限付きだけどテレビもユーチューブも観れる。

(そういや、柚葉は高校生なのに、スマホ持ってないんだよな) 
 家に忘れたのかな、とも思ったけど、財布持ってるのにスマホ持ってないって、なんか逆な気がする。
 中高生はスマホ命で財布を忘れても、スマホは忘れない……気がする。

 オレだって今はキッズ携帯だけど、来年、中学校入学と同時にスマホデビューする約束は、取り付けてある。

 柚葉の、一見、楽観的で、何も考えてなさそ~に見える顔の奥には、実は深刻な悩みが隠されていて、この明るさも現実逃避的なアレで……

 柚葉の悲劇的な境遇に激しく同情した時、ふと見覚えのある人影を見た気がして、ぎょっとそちらに目を向けた。

 真っ黒いパーカーのフードをかぶり、耳からイヤホンの線を垂らして、ベンチに座りながらスマホを眺めている中学生っぽい男子。

 間違いない。朔太郎だ。
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