28 / 84
【家族の始まり】
しおりを挟む
「お前、意外とバカなんじゃな」
「…………へ?」
(バカって)
意味が分からず顔を上げると、じいちゃんは、ものすごーく呆れた顔をしていた。
「よう考えてみぃ。結婚は他人とするもんじゃろが。つまり家族の始まりは他人からじゃ。じいちゃんはばあちゃんと血が繋がってないし、お前の父さんとも血が繋がってない。どこの家族も、みーんな、血のつながってない人たちが混ざっとる。なのに、なんで孫と血がつながってないと可愛いがれんことになるんだ? 意味わからん。血が繋がってないと可愛くないなら、じいちゃんはばあちゃんと連れ添ってられん。ばあちゃんはああ見えて、可愛げのある女だぞ。近頃ちょっとデカいが、まあそれもご愛敬じゃ」
「……だけど」
「ちなみに、じいちゃんはこのサツマイモもめちゃんこ可愛いぞ。こーんな苗の時から手間暇かけて立派に育ててやったんじゃ。手塩にかけたってやつじゃ。水やって、肥料やって、悪い虫がつかんように気ぃ付けてな。長いこと世話してきたもんは、みぃんな可愛い。年月が増えれば増えるほど愛情は増すもんじゃろ。お前とは何年の付き合いだと思うとる? 畑で立ちションを伝授してやったのはじいちゃんだぞ。小2の時に、スイカ食べ過ぎてやらかしたお前のねしょんべんを、母さんたちに内緒でこっそり洗ってやったのもじいちゃんじゃろが。それから」
「も、もういい! そんなの、ずっと昔の話だろ!」
黒歴史を暴露されて真っ赤になる柚樹に、じいちゃんがにやっと笑う。
「そうだ。ずっと昔の話だ。それだけ、じいちゃんとお前の間には積もりに積もった年月があるってことを忘れるな」
「あ」
ぐしゃっと、じいちゃんが軍手のまま柚樹の頭を乱暴に撫でた。
「確かにお前の家族はちょっとイレギュラーかもしれん。いろいろ難しい部分もあるじゃろ。だから、二人目は今だったんだと思うぞ」
「?」
顔を上げる柚樹を地面に押し込むみたいに、じいちゃんがぐりぐりと頭を強めに撫でながら続ける。
「ユズの成長を見て、新しい家族が増えても大丈夫だと父さんと母さんが判断したから、妹が生まれるんじゃろ」
「……」
じいちゃんは、いつになく優しい口調で、噛みしめるようにゆっくりと、でもはっきりと断言した。
「お前はいい子にすくすく育っとる。じいちゃんとばあちゃんの自慢の孫じゃ」
心の中にあった黒い黒い塊が解けていく。
サツマイモを食べようとしたら、ぽたぽたと、柚樹の目から大粒の涙がこぼれていった。
「いいぞ! 泣け泣け! 全部出せ」
笑いながらじいちゃんは、柚樹の頭をわしゃわしゃ撫で続ける。
「やめろよ、オレ、泣いてなんか」
その先は、涙と鼻水と嗚咽のせいで、言葉にならなかった。
そのあと、じいちゃんと二人で一本の焼き芋を半分こにして食べた。
「じいちゃん」
すっきりした心で、柚樹はじいちゃんに話しかける。晴れ上がった心の代わりに、瞼がどんよりもったり重たい。
目、腫れてるんだろうな、と思う。あんなに泣いたのは、本当に久しぶりだ。
ちょっと、ハズい。
「なんだ?」とじいちゃんが聞く。
これを言うのは、もっとハズいけど。覚悟を決めて、伝える。
「ありがとう」
「……そういうんは、もぞがゆいからやめぇ」と、じいちゃんが眉をしかめた。照れ隠しのしかめっ面。照れるじいちゃんが面白い。
「そろそろ帰るか? 友達も待っとるじゃろ?」とそっぽを向きながらじいちゃんが言った。
(それって……柚葉のこと?)
「じいちゃん、見えてたの?」
「当たり前じゃろ。幽霊じゃあるまいし。それに海猿、山猿と呼ばれたじいちゃんの目をなめるなよ。年上の彼女か? お前もなかなかやるな」
このぉ、と言いながら、じいちゃんがニヤリとする。
「ち、違うに決まってるだろ!」
「心配せんでもばあちゃんらには秘密にしといてやるから。土産に焚火イモ持ってけ。女は甘いもんでイチコロじゃあ」
「だから本当に違うんだってば!」
「そうかそうか」
ニヤニヤするじいちゃんにパンチを繰り出すと「お、このじいちゃんとやる気か?」と、じいちゃんが笑った。
「…………へ?」
(バカって)
意味が分からず顔を上げると、じいちゃんは、ものすごーく呆れた顔をしていた。
「よう考えてみぃ。結婚は他人とするもんじゃろが。つまり家族の始まりは他人からじゃ。じいちゃんはばあちゃんと血が繋がってないし、お前の父さんとも血が繋がってない。どこの家族も、みーんな、血のつながってない人たちが混ざっとる。なのに、なんで孫と血がつながってないと可愛いがれんことになるんだ? 意味わからん。血が繋がってないと可愛くないなら、じいちゃんはばあちゃんと連れ添ってられん。ばあちゃんはああ見えて、可愛げのある女だぞ。近頃ちょっとデカいが、まあそれもご愛敬じゃ」
「……だけど」
「ちなみに、じいちゃんはこのサツマイモもめちゃんこ可愛いぞ。こーんな苗の時から手間暇かけて立派に育ててやったんじゃ。手塩にかけたってやつじゃ。水やって、肥料やって、悪い虫がつかんように気ぃ付けてな。長いこと世話してきたもんは、みぃんな可愛い。年月が増えれば増えるほど愛情は増すもんじゃろ。お前とは何年の付き合いだと思うとる? 畑で立ちションを伝授してやったのはじいちゃんだぞ。小2の時に、スイカ食べ過ぎてやらかしたお前のねしょんべんを、母さんたちに内緒でこっそり洗ってやったのもじいちゃんじゃろが。それから」
「も、もういい! そんなの、ずっと昔の話だろ!」
黒歴史を暴露されて真っ赤になる柚樹に、じいちゃんがにやっと笑う。
「そうだ。ずっと昔の話だ。それだけ、じいちゃんとお前の間には積もりに積もった年月があるってことを忘れるな」
「あ」
ぐしゃっと、じいちゃんが軍手のまま柚樹の頭を乱暴に撫でた。
「確かにお前の家族はちょっとイレギュラーかもしれん。いろいろ難しい部分もあるじゃろ。だから、二人目は今だったんだと思うぞ」
「?」
顔を上げる柚樹を地面に押し込むみたいに、じいちゃんがぐりぐりと頭を強めに撫でながら続ける。
「ユズの成長を見て、新しい家族が増えても大丈夫だと父さんと母さんが判断したから、妹が生まれるんじゃろ」
「……」
じいちゃんは、いつになく優しい口調で、噛みしめるようにゆっくりと、でもはっきりと断言した。
「お前はいい子にすくすく育っとる。じいちゃんとばあちゃんの自慢の孫じゃ」
心の中にあった黒い黒い塊が解けていく。
サツマイモを食べようとしたら、ぽたぽたと、柚樹の目から大粒の涙がこぼれていった。
「いいぞ! 泣け泣け! 全部出せ」
笑いながらじいちゃんは、柚樹の頭をわしゃわしゃ撫で続ける。
「やめろよ、オレ、泣いてなんか」
その先は、涙と鼻水と嗚咽のせいで、言葉にならなかった。
そのあと、じいちゃんと二人で一本の焼き芋を半分こにして食べた。
「じいちゃん」
すっきりした心で、柚樹はじいちゃんに話しかける。晴れ上がった心の代わりに、瞼がどんよりもったり重たい。
目、腫れてるんだろうな、と思う。あんなに泣いたのは、本当に久しぶりだ。
ちょっと、ハズい。
「なんだ?」とじいちゃんが聞く。
これを言うのは、もっとハズいけど。覚悟を決めて、伝える。
「ありがとう」
「……そういうんは、もぞがゆいからやめぇ」と、じいちゃんが眉をしかめた。照れ隠しのしかめっ面。照れるじいちゃんが面白い。
「そろそろ帰るか? 友達も待っとるじゃろ?」とそっぽを向きながらじいちゃんが言った。
(それって……柚葉のこと?)
「じいちゃん、見えてたの?」
「当たり前じゃろ。幽霊じゃあるまいし。それに海猿、山猿と呼ばれたじいちゃんの目をなめるなよ。年上の彼女か? お前もなかなかやるな」
このぉ、と言いながら、じいちゃんがニヤリとする。
「ち、違うに決まってるだろ!」
「心配せんでもばあちゃんらには秘密にしといてやるから。土産に焚火イモ持ってけ。女は甘いもんでイチコロじゃあ」
「だから本当に違うんだってば!」
「そうかそうか」
ニヤニヤするじいちゃんにパンチを繰り出すと「お、このじいちゃんとやる気か?」と、じいちゃんが笑った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

目に映った光景すべてを愛しく思えたのなら
夏空サキ
ライト文芸
大阪の下町で暮らす映子は小学四年生。
心を病んだ母と、どこか逃げてばかりいる父と三人で暮らしている。
そんな鬱屈とした日常のなか、映子は、子供たちの間でみどりばあさんと呼ばれ、妖怪か何かのように恐れられている老人と出会う。
怖いながらも怖いもの見たさにみどりばあさんに近づいた映子は、いつしか彼女と親しく言葉を交わすようになっていった―――。
けれどみどりばあさんには、映子に隠していることがあった――。
田んぼのはずれの小さな小屋で暮らすみどりばあさんの正体とは。
(第六回ライト文芸大賞奨励賞をいただきました)
小さなパン屋の恋物語
あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。
毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。
一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。
いつもの日常。
いつものルーチンワーク。
◆小さなパン屋minamiのオーナー◆
南部琴葉(ナンブコトハ) 25
早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。
自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。
この先もずっと仕事人間なんだろう。
別にそれで構わない。
そんな風に思っていた。
◆早瀬設計事務所 副社長◆
早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27
二人の出会いはたったひとつのパンだった。
**********
作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる