YUZU

箕面四季

文字の大きさ
上 下
2 / 84

【13日の金曜日】

しおりを挟む
 もうすぐ妹が生まれるー。

 母さんが入院したと知らされたのは、不吉で有名な13日の金曜日のことだった。
 11月13日の金曜日。朝からしとしと冷たい雨が降っていて、肌寒い6時間目の、算数のテストの真っ只中のことである。

 昨日まで10月中旬並みの秋晴れが続いていた。今朝は急激に冷え込んで、いつもは母さんにたたき起こされないと布団から出られない柚樹も、あまりの寒さに目が覚めた。

 日中の最高気温は8℃と天気予報で言っていたが、体感温度的にはもっと低い気がする。まだ暖房の準備ができていなかった教室は寒く、特別にジャンパーを着こんで授業を受けていいことになった。
 外は薄暗く、一日中嫌な感じで雨が降り続けていた。

 給食には、みんなが嫌いなセロリのヨーグルトサラダも出た。野菜の中でも癖の強いセロリと、水っぽいキャベツの千切り、微妙にしょっぱいいちょう切りのリンゴを酸っぱいヨーグルトであえるなんて、メニューを考えた人の舌は絶対におかしい。
 アレを美味しいと食べている生徒を見たことがないし、アレルギーのフリをして残す奴もいる。

 いつもは好き嫌いしないで食べなさいとうるさい担任の林先生が、セロリのヨーグルトサラダの残飯については知らんぷりなところを見ると、たぶん先生も苦手なんじゃないかと思う。

 マズい給食の後は、校庭で遊べない拷問の昼休み。
 そんでもって、最後の6時間目はとどめの算数テストと、13日の金曜日らしい不吉のラインナップに、みんな辟易していた。

 一日中黄色い蛍光灯をつけた6年3組の教室内は、どんより陰気な雰囲気がこれでもかと漂っている。
 とはいえ、この試練さえ乗り越えれば、土日の連休が待っていた。明日からはまた、天気も回復するらしい。

 希望の光も見え始め、ストレス解放も目前。どの席もちょっとそわそわしていた。
 柚樹もそうだった。
 いや、クラスに居場所がない分、みんな以上に休日が待ち遠しくてたまらない。

 ふと見たら、テストの名前の欄が空白という凡ミスをしでかしていて、(やばっ)と、慌てて『秋山柚樹』と氏名を記入していると、教室の前ドアがノックされた。

 みんなが一斉に顔を上げる。
 四角い窓からつるっと禿げた頭がひょっこり覗いていた。あの光り方は教頭先生だ。

 くすくす笑い声が漏れ、立ち上がった担任の林先生が「静かに」と人差し指を当てて、廊下に消えた。
 ただでさえ集中力の欠けたクラス。テストそっちのけでみんな興味津々にドアを見つめている。

「秋山君」
 戻ってきた林先生は、深刻そうに柚樹を呼んだのだった。

「妊娠中のお母さんが体調を崩して緊急入院されたそうよ。正門でお父さんが待っているわ。すぐに準備して帰りなさい」
 瞬間、ボッと耳が熱くなった。柚樹は真っ赤になって下を向く。

(最悪だ)
 なんで妊娠とか、みんなの前で言うんだよ!

「秋山君のお母さんって……」
 ひそひそ。

「先生、みんなの前で言っちゃうなんて、再婚の話知らないのかも」
 ひそひそ。

「オレだったら、ハズすぎて死ぬな」
 ニヤニヤ。

 妊娠。出産。再婚。赤ちゃん。

 ―エロい。

 柚樹に向けられる嫌悪と興味のまなざしに呼吸が乱れる。

「静かに! 他の人はテストに集中してください!」

 パンパン、と林先生が手を叩いている。
 斜め前に座る朔太郎がちらっと柚樹を振り返り「エロ出産」と舌を出して笑った。

 カッと、頭に血がのぼる。
 朔太郎の隣の席のゆかりが「やめなよ」と小さく制したが「柚樹の肩持つと妊娠するぜ」と言われ、巻き込まれたくないとばかりにテストに向き直った。

 死ね、死ね、死ね、死ね。

 柚樹は机の中の教科書をランドセルにぐちゃぐちゃ突っ込み、ペコリと先生にお辞儀をして逃げるように教室を飛び出したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花に祈り

海乃うに
ライト文芸
 森に囲まれたヴィラ・フロレシーダは、すこし離れたところに位置する大きな町ジャルディン・ダ・ライーニャの名家バレット家が管理する静かで美しい村である。ある日その村にエリザベス・バレットというひとりの女性が越してくることになった。バレット家の当主ローズ・バレットの手紙によればエリザベスは療養のため自然の多いところで暮らす必要があるのだという。しかし実際にやってきたエリザベスには病気らしいところは見受けられない。彼女はすこしずつ村人たちと打ち解けヴィラ・フロレシーダでの暮らしを楽しんでいた。  エリザベスの身の回りの世話係には村いちばんの料理上手と言われるアゼリア・メロが選ばれた。アゼリアの料理と優しさに触れるうち、エリザベスはすこしずつ彼女に心を開くようになってゆき、またエリザベスの身の上を知ったアゼリアはなんとか彼女の心に寄り添おうとする。  ある日、アゼリアは春になったら一緒に雪を見ようとエリザベスに持ちかけた。雪の積もらないヴィラ・フロレシーダでそれも春に、ということにエリザベスは首を傾げたが、約束の日アゼリアはエリザベスを連れ出した。目の前に広がる雪景色のあまりの美しさに胸を打たれたエリザベスは、その景色を見せてくれたアゼリアとの出会いに感謝するのだった。

パンダ☆らんでぶ~

藤沢なお
ライト文芸
灯里(あかり)はコールセンター勤務の普通の28歳。 七夕の夜に偶然拾ったパンダのキーホルダーとの ふれあいから少しずつ気持ちが動き始めていく。 何せ、そのパンダは、 1.大きな姿になることができる。 2.話ができるうえに料理が得意。 3.灯里と半分血が繋がった『弟』だった。 え? このパンダ、中身は「ヒト」だったの? あたたかい食事は、心を解きほどいてくれる。 ちょっぴり笑えて、ちょっとじんわり。 パンダと過ごす優しい時間のお話です。 どうぞよろしくお願いいたします。 ☆この物語はフィクションです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

伊緒さんの食べものがたり

三條すずしろ
ライト文芸
いっしょだと、なんだっておいしいーー。 伊緒さんだって、たまにはインスタントで済ませたり、旅先の名物に舌鼓を打ったりもするのです……。 そんな「手作らず」な料理の数々も、今度のご飯の大事なヒント。 いっしょに食べると、なんだっておいしい! 『伊緒さんのお嫁ご飯』からほんの少し未来の、異なる時間軸のお話です。 「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にても公開中です。 『伊緒さんのお嫁ご飯〜番外・手作らず編〜』改題。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

颯(はやて)

おりたかほ
ライト文芸
小さな女子校の小さな出来事。 美術部部長と引きこもり顧問の話。 感染症対策に明け暮れた青春の記録。 当時図らずも染みた漱石「こころ」へのオマージュ作品です。

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
 神楽坂高校の俺は、ある日学食に飯を食いに行こうとしたら、数学の堂本が一年の女子をいたぶっているところに出くわしてしまう。数学の堂本は俺にω(オメガ)ってあだ名を付けた意地悪教師だ。  ωってのは、俺の口が、いつもωみたいに口元が笑っているように見えるから付けたんだってさ。  いたぶられてる女子はΣ(シグマ)って堂本に呼ばれてる。顔つきっていうか、口元がΣみたいに不足そうに尖がってるかららしいが、ω同様、ひどい呼び方だ。  俺は、思わず堂本とΣの間に飛び込んでしまった。

処理中です...