タチバナ

箕面四季

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空蝉の声

光の正体

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 お酒に酔った染谷さんは、僕にこれまでの恋愛についてぽつぽつと話しだした。

 それはとてつもなく苦く、苦しく、孤独で、痛々しいものだった。
 ふと山田さんを思い出す。

 染谷さんの孤独で痛々しい恋愛歴こそが、僕がシンパシーを覚え、惹かれた正体だと思った。
 ならば、僕が恋焦がれた光の正体は?

 彼女は言った。

「もうやめたいんだよね」

 染谷さんが僕を見つめる。
 彼女の瞳は憂いに満ち、諦めの色が濃かった。
 僕の好きな光が、とても弱くなっている。
 消え入りそうなともしび。

 きっと、この光が消えれば染谷さんは僕のものになるのだろうと思った。
 それはとても魅力的で甘美で、とてもとても残念だ。

「橘さんとだったら、普通の恋愛ができるんじゃないかと、思うんだよね。だから」

 目が赤い。とろんとした色っぽい表情にドキリとした。

 やっぱり僕は染谷さんが好きだと思う。
 どうしようもなく、言葉では言い表せない感情で、大好きだ。

 成り行きでも、間違いでも、気の迷いでも、誰かを忘れるために利用するでも、なんでも構わない。
 たとえ彼女の瞳から僕の好きな光が永遠に損なわれても、それでも僕は、その染谷さんを愛せる自信がある。

 染谷さんのためなら、偽りの愛情に気づかないふりをして関係を続けていくこともできる。
 そうやって歳を取って死んでいけるなら本望だ。

 望まないなら子どももいらない。
 全ての生物に備わり続ける遺伝子保存のどうしようもない本能に、最後まで抗い続ける覚悟もある。

 ただ、隣にいるだけでいい。
 それだけできっと僕は幸せだ。

 でも彼女の方はどうだろう。

 それで幸せになれるのだろうか。
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