タチバナ

箕面四季

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空蝉の声

ペットの名前

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「で、どんな名前が出たの?」と、染谷さんが聞く。
「ええと。黒毛玉、毛玉、いちご、モモ、クロ、それから、ハルとか、コハルとか」

「春?」

「僕の名前がナツだから、春夏秋冬の連想かな」
「……ああ、なるほどねー」

 染谷さんの砕けた口調がくすぐったい。
 モルモットだったら小ジャンプを繰り返しているところだ。

「ペットの名前は、みんなどうやって決めているんだろう」と僕は首を傾げた。
「うーん。ペットの好きな食べ物や体の特徴から連想してつけることもあるし、飼い主の好きなものからつけることもあるかな。あと好きな映画のキャラとか……」

「……聞けば聞くほど、わからなくなるな」
「納得のいくまでじっくり考えたらいいよ。名前は大切だから」

 染谷さんの言葉は不思議な力と説得力に満ちている。
 きっと僕は染谷さんが白を黒と言ったら、黒と信じるだろう。

「そうだね。そうするよ」
 僕は頷いた。

「では抱っこの練習を始めましょうか」
 学校の先生みたいに染谷さんが言って、愛おしそうな手つきでケージから黒モルモットを抱き寄せる。
 こういう時、心底黒モルモットが羨ましい。
 ちょっと嫉妬する。

 結局、僕が黒モルモットを自力で抱っこできるようになるまでにひと月かかった。
 その間に僕と染谷さんは急速に親しくなっていった。

 昔取った杵柄なのか、過去に僕が被り続けてきた社交的な殻はまだちゃんと機能していて、ごく自然に必要な分だけ内向的な殻の下から顔を出し、僕のコミュニケーションを手助けした。

 染谷さんと話すようになってから、殻だと思っていた部分は、もしかしたら本当の僕の一部なのかもしれないと思うこともあった。
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