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空蝉の声
完璧な両親の子供
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十三度目の夢を見た時、唐突に僕は羽化不全の蝉が僕であることに気づいた。
蝉は、幼虫の殻を脱ぐのが遅すぎて脱げなくなっていた。
時期を逃しガチガチに固まってしまった殻は、自分と癒着してもう離れない。
僕は飛べない。
飛べないままに木の幹を転がりおちて、アリに食べられていく。
果てしない空では、こんなにもたくさんの仲間が鳴いているのに、僕はそのどれにもなれなかった。
誰も僕を知らない。
僕自身も僕を知らない。
蝉の抜け殻のことを『空蝉』という。
空蝉はまた、現に生きている人のことも指す。
それが転じてこの世、現世、人間界。これは古語の『うつしおみ』が語源になっているらしい。
自分を見失った僕は、この世に半分生きていて、かろうじて息をしながら死ぬのを待っている。
僕に群がるアリは、僕の周りを囲んでいた友達や告白してきた女子たち。
僕は彼らの望む自分を演じて、彼らに消費されていく。
僕は圧倒的な孤独の中にいた。
いよいよダメになったのは、この大学に入学した頃だ。
両親から離れて一人暮らしをすることになったのも要因のひとつだろう。
両親は僕に理想を押し付ける人たちではなかった。
間違いなく、ありのままの僕を受け入れてくれる度量の持ち主だった。
僕がバカでも運動ができなくても、引っ込み思案でも、自由奔放でも、オタクでも、男でなくても、どんな性格でも、きっとなんでも受け入れてくれたと思う。
だけど僕にはできなかった。
父も母も人間性に長けていて、彼らに相応しい息子になることを世間が望んでいた。
それを敏感に察知できるくらいの知能が幼少期からあった。
僕は一般的な子供よりも優秀じゃないといけない。
そうじゃないと両親が僕のせいで馬鹿にされてしまうから。
だけど両親に僕が無理していると思われてもいけない。
父も母もそんなことはしなくていいと言うに決まっているから。
子供ながらにそう思ったことは覚えている。
無理やり貼り付けた偽りのアイデンティティは案外あっさり僕に馴染んだ。
いつしか僕も、僕は最初からこういう性格だったと思うようになっていた。
なのに、友達が増えれば増えれるほど、先生に褒められれば褒められるほど、女子の告白が続くほど、僕の内側は冷たく固まって、叫びだしたくなる衝動にかられた。
少しずつ、でも確実に溺れていく。
蝉は、幼虫の殻を脱ぐのが遅すぎて脱げなくなっていた。
時期を逃しガチガチに固まってしまった殻は、自分と癒着してもう離れない。
僕は飛べない。
飛べないままに木の幹を転がりおちて、アリに食べられていく。
果てしない空では、こんなにもたくさんの仲間が鳴いているのに、僕はそのどれにもなれなかった。
誰も僕を知らない。
僕自身も僕を知らない。
蝉の抜け殻のことを『空蝉』という。
空蝉はまた、現に生きている人のことも指す。
それが転じてこの世、現世、人間界。これは古語の『うつしおみ』が語源になっているらしい。
自分を見失った僕は、この世に半分生きていて、かろうじて息をしながら死ぬのを待っている。
僕に群がるアリは、僕の周りを囲んでいた友達や告白してきた女子たち。
僕は彼らの望む自分を演じて、彼らに消費されていく。
僕は圧倒的な孤独の中にいた。
いよいよダメになったのは、この大学に入学した頃だ。
両親から離れて一人暮らしをすることになったのも要因のひとつだろう。
両親は僕に理想を押し付ける人たちではなかった。
間違いなく、ありのままの僕を受け入れてくれる度量の持ち主だった。
僕がバカでも運動ができなくても、引っ込み思案でも、自由奔放でも、オタクでも、男でなくても、どんな性格でも、きっとなんでも受け入れてくれたと思う。
だけど僕にはできなかった。
父も母も人間性に長けていて、彼らに相応しい息子になることを世間が望んでいた。
それを敏感に察知できるくらいの知能が幼少期からあった。
僕は一般的な子供よりも優秀じゃないといけない。
そうじゃないと両親が僕のせいで馬鹿にされてしまうから。
だけど両親に僕が無理していると思われてもいけない。
父も母もそんなことはしなくていいと言うに決まっているから。
子供ながらにそう思ったことは覚えている。
無理やり貼り付けた偽りのアイデンティティは案外あっさり僕に馴染んだ。
いつしか僕も、僕は最初からこういう性格だったと思うようになっていた。
なのに、友達が増えれば増えれるほど、先生に褒められれば褒められるほど、女子の告白が続くほど、僕の内側は冷たく固まって、叫びだしたくなる衝動にかられた。
少しずつ、でも確実に溺れていく。
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