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空蝉の声
フィールドワーク日和
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「ナツ先生、オレらこれから山の下公園までフィールドワーク行こうと思ってるんすけど、ナツ先生と佐々木さんもどうすか?」
「行こーよ、ナツっち~」
「ミーティングで寝ちゃうとか、ナツ先生働きすぎだと思う。息抜きはシームレスへの近道ですよ」
シームレスへの近道とはどういう意味だろう。
確かに、初夏のこの時間は昆虫を探すにはもってこいのゴールデンタイムだ。
まだ蝉の季節には早いが、昼間の気温が三十℃手前まで上がった夏日の今日の山の下公園なら、シロテンハナムグリやトゲナナフシなどがいそうだ。
あそこはケヤキもあるし、運が良ければタマムシも見つかるかもしれない。
「いいですね。行きましょうか、先生」と佐々木さん。
「佐々木さんは電車通勤すよね。オレ車出すんで助手席乗ってくだしゃいっ」
すかさず高杉君がアピール。
高杉君の目的には佐々木さんとのドライブも含まれているようだ。
高杉君の性格はとてもわかりやすい。故に彼の恋愛事情もわかりやすい。
わかりやすいのはいいことだ。
「なら、あたしはナツっちの車の助手席乗る~」
「何言ってんのよ。さっきのじゃんけんで今回は高杉と早坂さんが車出すって決まったでしょ」と山田さん。
車二台で行くなら、僕が送迎する必要はなさそうだ。
「楽しそうだけど、僕は昆虫マットの補充のため、このあとホームセンターに行く予定です。僕に構わずみんなで行ってきてください」
「出た! 毎週水曜日のナツっちルーティン。ホームセンター愛」
「昆虫マットくらいネット注文すればシームレスですよ。即日配達してくれるし。ナツ先生、今日を逃したらまたしばらく雨だよ」
そう誘われてちょっと心が揺らぐ。
確かに、今日は久しぶりの晴れ間だった。
今年は春先から続く線状降水帯の異常発生で、ここ数日雨が続いていたし、この先も雨が多い予報が出ている。
今日を逃すのは惜しい気もしてきたが。
「実は水曜日のホームセンターに、お気にのスタッフがいたりして」
当たらずとも遠からずな高杉君の指摘に、おもわずドキリとなる。
「まっさかー。ナツっちは恋愛感情欠落男子っしょ。ねー、ナツっち!」
「アセクシュアルです。男子とは言えない年齢ですけどね」
「つか先生、それマジなんすか? その顔、宝の持ち腐れじゃないっすか。オレにくださいよ」
「高杉は顔よりまず、その性格を直したら?」
「山田ってオレにだけ厳しいよな。もしかしてオレのこと好き?」
「アホ」
「あの先生、ホームセンターで備品を買うなら私も同行します」
「ああ、いえ。早坂さんの言う通り、水曜日の夕方にホームセンターへ行くのは僕の長年のルーティンなんです。昆虫マットはついでですから」
「でも」
「それより佐々木さんが学生の付き添いをしていただければ、僕としても安心です」
「そういうことでしたら」
佐々木さんは素直に頷いて、学生たちとフィールドワークに向かっていった。
「行こーよ、ナツっち~」
「ミーティングで寝ちゃうとか、ナツ先生働きすぎだと思う。息抜きはシームレスへの近道ですよ」
シームレスへの近道とはどういう意味だろう。
確かに、初夏のこの時間は昆虫を探すにはもってこいのゴールデンタイムだ。
まだ蝉の季節には早いが、昼間の気温が三十℃手前まで上がった夏日の今日の山の下公園なら、シロテンハナムグリやトゲナナフシなどがいそうだ。
あそこはケヤキもあるし、運が良ければタマムシも見つかるかもしれない。
「いいですね。行きましょうか、先生」と佐々木さん。
「佐々木さんは電車通勤すよね。オレ車出すんで助手席乗ってくだしゃいっ」
すかさず高杉君がアピール。
高杉君の目的には佐々木さんとのドライブも含まれているようだ。
高杉君の性格はとてもわかりやすい。故に彼の恋愛事情もわかりやすい。
わかりやすいのはいいことだ。
「なら、あたしはナツっちの車の助手席乗る~」
「何言ってんのよ。さっきのじゃんけんで今回は高杉と早坂さんが車出すって決まったでしょ」と山田さん。
車二台で行くなら、僕が送迎する必要はなさそうだ。
「楽しそうだけど、僕は昆虫マットの補充のため、このあとホームセンターに行く予定です。僕に構わずみんなで行ってきてください」
「出た! 毎週水曜日のナツっちルーティン。ホームセンター愛」
「昆虫マットくらいネット注文すればシームレスですよ。即日配達してくれるし。ナツ先生、今日を逃したらまたしばらく雨だよ」
そう誘われてちょっと心が揺らぐ。
確かに、今日は久しぶりの晴れ間だった。
今年は春先から続く線状降水帯の異常発生で、ここ数日雨が続いていたし、この先も雨が多い予報が出ている。
今日を逃すのは惜しい気もしてきたが。
「実は水曜日のホームセンターに、お気にのスタッフがいたりして」
当たらずとも遠からずな高杉君の指摘に、おもわずドキリとなる。
「まっさかー。ナツっちは恋愛感情欠落男子っしょ。ねー、ナツっち!」
「アセクシュアルです。男子とは言えない年齢ですけどね」
「つか先生、それマジなんすか? その顔、宝の持ち腐れじゃないっすか。オレにくださいよ」
「高杉は顔よりまず、その性格を直したら?」
「山田ってオレにだけ厳しいよな。もしかしてオレのこと好き?」
「アホ」
「あの先生、ホームセンターで備品を買うなら私も同行します」
「ああ、いえ。早坂さんの言う通り、水曜日の夕方にホームセンターへ行くのは僕の長年のルーティンなんです。昆虫マットはついでですから」
「でも」
「それより佐々木さんが学生の付き添いをしていただければ、僕としても安心です」
「そういうことでしたら」
佐々木さんは素直に頷いて、学生たちとフィールドワークに向かっていった。
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