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空蝉の声
羽化不全の蝉
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夢の中で、これは夢だと思うことがある。
今の僕がまさしくそうだ。
そしてこの夢は繰り返し見たことのある夢だ。
なのに、いつも重要な部分が抜けてしまう。
蝉が鳴いていた。
クマゼミとアブラゼミとニイニイゼミとツクツクボウシとヒグラシがいっぺんに鳴いている。
ジーーーーーー、ジュワジュワジュワジュワ~、チィーーーーー、ツクツクボーシツクツクボーシ、カナカナカナカナ……
それらが大音量で鳴いていてやかましい。
でもそんなはずはない。
クマゼミとアブラゼミはわかる。
だがニイニイゼミは僕の住んでいる地域ではクマゼミよりも少し早い時期に鳴く。
逆にツクツクボウシはクマゼミよりも少し後に鳴く。
ヒグラシは言わずもがな、夏の終わりの夕刻に鳴く。
セミたちは夏に一斉に鳴くようで、微妙に仲間同士で住み分けている。
それらが一斉に、どれもこれも大音量で鳴くはずがない。
五種のセミが一斉に大音量で鳴いたら鼓膜が無事でいられるはずもない。
灼熱の太陽が、黄色く、白く、じりじりと僕の頭上を照らしていた。
八月のお盆の時期。
真夏の正午。
汗が出ている。でも実際の僕は八月の正午に外へ出たことはない。
その時間は四十℃を超えるため、いくら夏休みであっても僕ら小学生は外出を禁止されている。
そう。僕は小学生だった。
そんなはずはない。
そんなはずはない僕は、灼熱の太陽が降り注ぐ公園の木の下に立って、暑さで干からびかけている幹についた奇妙な瘤を見上げている。
なんだろう。なんだろう。
あ、そっか。
これは羽化不全の蝉だ。
抜け殻から身体を半分出したまま動けなくなってしまっている。
まだ生きている。
でも助からない。
固まってしまっている。
もう飛べない。
ああ、そうだった。
十三回目にこの夢を見た時に気づいたじゃないか。
これは、僕だ。
僕だったんだ。
自覚した途端、羽化不全の蝉がコロリと地面に落ちた。
そこにはアリがいた。
アリは仲間を呼んで、瞬く間にそれは黒くなっていく。
びっしりと囲まれて、生きたまま小さな塊にされていく。
なすすべもない僕。
遠い空でたくさんのセミが鳴いている。
うるさい。うるさい。うるさい。
痛い。苦しい。息ができない。
誰か。誰か。
――助けて。
今の僕がまさしくそうだ。
そしてこの夢は繰り返し見たことのある夢だ。
なのに、いつも重要な部分が抜けてしまう。
蝉が鳴いていた。
クマゼミとアブラゼミとニイニイゼミとツクツクボウシとヒグラシがいっぺんに鳴いている。
ジーーーーーー、ジュワジュワジュワジュワ~、チィーーーーー、ツクツクボーシツクツクボーシ、カナカナカナカナ……
それらが大音量で鳴いていてやかましい。
でもそんなはずはない。
クマゼミとアブラゼミはわかる。
だがニイニイゼミは僕の住んでいる地域ではクマゼミよりも少し早い時期に鳴く。
逆にツクツクボウシはクマゼミよりも少し後に鳴く。
ヒグラシは言わずもがな、夏の終わりの夕刻に鳴く。
セミたちは夏に一斉に鳴くようで、微妙に仲間同士で住み分けている。
それらが一斉に、どれもこれも大音量で鳴くはずがない。
五種のセミが一斉に大音量で鳴いたら鼓膜が無事でいられるはずもない。
灼熱の太陽が、黄色く、白く、じりじりと僕の頭上を照らしていた。
八月のお盆の時期。
真夏の正午。
汗が出ている。でも実際の僕は八月の正午に外へ出たことはない。
その時間は四十℃を超えるため、いくら夏休みであっても僕ら小学生は外出を禁止されている。
そう。僕は小学生だった。
そんなはずはない。
そんなはずはない僕は、灼熱の太陽が降り注ぐ公園の木の下に立って、暑さで干からびかけている幹についた奇妙な瘤を見上げている。
なんだろう。なんだろう。
あ、そっか。
これは羽化不全の蝉だ。
抜け殻から身体を半分出したまま動けなくなってしまっている。
まだ生きている。
でも助からない。
固まってしまっている。
もう飛べない。
ああ、そうだった。
十三回目にこの夢を見た時に気づいたじゃないか。
これは、僕だ。
僕だったんだ。
自覚した途端、羽化不全の蝉がコロリと地面に落ちた。
そこにはアリがいた。
アリは仲間を呼んで、瞬く間にそれは黒くなっていく。
びっしりと囲まれて、生きたまま小さな塊にされていく。
なすすべもない僕。
遠い空でたくさんのセミが鳴いている。
うるさい。うるさい。うるさい。
痛い。苦しい。息ができない。
誰か。誰か。
――助けて。
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