タチバナ

箕面四季

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お姉さんの大ピンチ

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「おい! 何してるんだ! こんなもの!」

 怒りに目を尖らせた小太りのスタッフが、お姉さんの抱えていたビラを勢い良く叩いた。

 ばさりとビラが床に落ちて散らばる。
 お姉さんはそれを拾いあげながら「だって明日なんですよね。なんとかしないと」と小太りのスタッフに食い下がった。

「だからなんだ。いなくなったケージに新しい商品を入荷できる。願ったりかなったりだ。売れない商品にエサをやるほどうちは儲かってないんだよ。ったく。わかったらくだらないビラ配りなんかやめて、さっさとインコケージの糞掃除でもやって……な、なんだその反抗的な目は」

 普段お姉さんに偉そうにしている小太りのスタッフがひるんだ。
 お姉さんは、キッと小太りスタッフを睨みつけ、ビラを抱えて無言でペットコーナーを出て行った。

「こ、こら! どこに行くつもりだ! くそ、絶対首にしてやる」
 小太りスタッフがお姉さんのあとを追いかけていく。

 首? 首と言うのは何?
 わからないけれどとても恐ろしい響きだ。

 お姉さんがピンチだとミミは直感した。
 何とかしないとと思った時、ナツが現れたのだ。
 ナツはお姉さんとミミをいつも観察している常連のお客さんだった。

 ミミは必至に小ジャンプを繰り返し、ナツにアピールを繰り返した。

『お姉さんを助けて』
 ハッと表情を変えたナツは、後ろを歩いていたお客さんのビラに注目し、少し話をして、血相を変えて走り出した。

 しばらくして、ナツはお姉さんと小太りのスタッフと一緒にミミのケージに戻ってきた。
 そして、言った。

「このモルモットをください」

 ありがとうございます。と頭を下げるお姉さんに、照れながらナツは尋ねた。

「あの、実は、僕はこれまで一度も動物を飼った経験がありません。ですので、ちょくちょくこちらでこの子の飼い方などを、染谷さんに教わりたいのですが、お願いできますか?」

「もちろんです!」
 お姉さんの返答を聞いて微笑んだナツは、小太りスタッフにも「問題ないでしょうか?」と確認した。

「ええ。まあ。はい」

 こうしてナツは、ミミの命とお姉さんの首を守ったのだった。
 ちなみに、首というのは仕事を辞めさせられることだと、ナツと暮らしはじめてからミミは知った。
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