タチバナ

箕面四季

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ミミとお姉さん

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 ミミが最初に聞いたヒトの言葉は「この子は売れ残る」だった。

 ミミはホームセンターの中にあるペットコーナーの商品だった。

 自分がモルモットの中のイングリッシュという、短毛で値段の安い品種であることや、イングリッシュの中でも真っ黒で華やかさに欠けるため売れ残りやすいこと、1年経っても売れ残っていたら殺処分になることなどをペットコーナーの飼育スタッフたちの日々の会話から理解した。

 飼育スタッフたちの話どおり、巻き毛や長い毛を持つモルモットたちは次々と売れていき、空になったケージに新たな赤ちゃんモルが補充されていく中、ミミだけは空気のように素通りされ続けていた。

 省スペースで飼いやすいペットとしてイヌネコに変わり人気が出ているモルモットの中で、ミミは落ちこぼれ商品だった。

 季節が一巡りして、もうすぐペットコーナーでの生活が1年経つ頃、ミミの価値は、とうとう他のモルモットたちの半分になった。
 それでも一向に売れる気配がない。
 殺処分になるのかな、と、なんとなく諦めていた。

「どうして君の魅力にみんな気づかないんだろう」
 ミミのケージの前で首を傾げたのは、今まで見たことのない飼育スタッフのお姉さんだった。
 お姉さんは、ミミを慣れた手つきでケージから取り出すと丁寧にブラッシングを始めた。

「私が連れて帰れたらいいのに」
 このペットコーナーでは、売れ残ったペットを飼育スタッフやその家族が購入することを禁じていた。
 その昔、ここで売れ残ったペットを新人の従業員に無理やり購入させて売り上げをあげていたことが発覚して、メディアにも取り上げられる大問題になったためだという。

「まあ、私には協力してくれる家族も親しい友達もいないんだけどね」

 お姉さんは「私も君と同じ天涯孤独なんだ」と笑って「絶対に君の家族をみつけてあげるからね」とミミを撫でた。

 有言実行。
 さっそくお姉さんは目立つ位置にミミのケージを移動させたり「賢く人なつっこい子です」とカラフルなポップをケージに貼ったりして、ミミが人目につくように工夫した。

 それでも効果がなくて、最終手段とばかりにお手製のビラをたっくさん作って、ペットコーナーの前で「家族になっていただける方を探しています。よろしくお願いします」と配り始めた。
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