タチバナ

箕面四季

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ライラック

きゅっぽん

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 翌日の放課後、桜井さんが中庭に出たいと言うので、私は華奢な桜井さんを車いすに乗せて、すいすいリノリウムの廊下を進んだ。

「私ね、卒業式が終わった三日後に、コウタ君に告白したの」
「うそっ、すごい!!」

 カナエちゃんの勇気お化けな行動力に、つい叫んでしまった。
 廊下で声が反響して、しまったと恥ずかしくなる。

「泉、元気だな」
 黒いきゅっぽんを持った橘が近くのトイレからひょっこり顔を覗かせた。トイレの詰まりを直していたらしい。

「たちばなー、きゅっぽんから、良くない水が垂れてるよぉ~」
 通りかかった女子集団が橘に言う。

「うわ、やっべ」
 慌ててトイレの中に引っ込む橘に「あの抜けてるとこがまたいいよねー」と黄色い声で騒ぎながら通り過ぎていった。
 無意識に片手で髪をなでつけていた。
 気を取り直して車いすを押す。

「でも携帯とかない時代なんですよね? どうやって連絡取ったんですか?」
「携帯電話はないけれど、家電はあったのよ。お母さんが出たらどうしようってドキドキしながら連絡網を握りしめて電話をかけたの」

 そういえば、昔は一家に一台、固定式の電話があったと、小学校の社会の授業で習ったっけ。
 いえでん、というのはきっとそれのことだ。

 れんらくもうって、なんだったっけ。
 それも習った気がするけれど忘れてしまった。

 本当に、そんな時代があって、そこで私くらいの女子たちが、今の私たちと同じような恋愛で悩んでいたんだと思ったら、なんだかすごく不思議だった。
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