タチバナ

ライラック

介護実習終了の時間

　カナエも自分はなんて嫌な女なんだろうと心底自分を軽蔑した。
　でも気づいてしまった恋心は止められない。
　苦しくて苦しくて、結局、カナエはサバ子ちゃんに「実はあたしもコウタ君のことが好きになっちゃった。ごめんね」と打ち明け、頭を下げた。

「そうなんだー」と間延びした言い方で笑ったサバ子ちゃんの目は冷めていた。

「サバ子ちゃん怖い……」
　こういうところからイジメは始まったりする。

　あの子の恋愛が成就しなかったあと、私はお気に入りの消しゴムが無くなったり、例のスクールカースト上位の女子軍団から「ブスの癖に色目使ってる」などと悪口を言われたりした。
　私は何もしていないのに。

「その後の学校、大丈夫でしたか？」
　心配になってたずねると「そこは、私もずる賢くてね」と、桜井さんは笑った。

「気まずくなってもいいように、あと数日で卒業式というタイミングに打ち明けたのよ。思った通り無視されちゃったけど、それも数日の辛抱で済んだわ。高校は別だったしね」
「良かったー」

　私はカナエちゃんの親友みたいな気持ちで、ホッと胸をなでおろす。

「それで肝心のコウタ君とは？」

『高校生の皆さん、まもなく介護実習終了の時間です。速やかに業務を終えて食堂ホールに集まってください』

「うそ？　いいところなのに」
「うふふ。じゃあ続きはまた明日の放課後」と桜井さんは約束してくれた。