タチバナ

ライラック

サバ子ちゃん

　カナエを振った野球部君はその後も今まで通り友達として普通に接してくれた。
　そんな野球部君のことを、カナエもまた密かに思い続けていた。

「中二病って言うの？　今思えば、すっごく恥ずかしい話だけど、私、失恋してもひたむきに想い続ける健気な自分、みたいなものに酔いしれていたのね。当時流行っていた失恋ソングに自分を重ねて夜に布団の中でこっそり泣いたりして」
「それ、その気持ち、なんかわかります」
　いつの時代も、恋愛って似てるんだな、と思う。

「ホント？　あるわよね、そういうこと」と、桜井さんがくすぐったそうにふふっと笑った。

　それから季節はめぐり、三学期を迎えた席替えでカナエはボーイッシュな雰囲気の女子と席が近くなった。
　これまであんまり話したことのない女子だった。

「背が高い子でね、自分はサバサバしてて女子より男子といる方が気が楽って、よく言ってたわ」
「それ、一番サバサバしてないタイプの女子ですね」

　顔をしかめた私をおかしそうに眺め「サバ子ちゃんにするわね」と桜井さんがあだ名をつけた。

　ある日の放課後、サバ子ちゃんが「カナエってコウタと仲いいよね。好きなの？」と、いきなり尋ねてきた。

「な、ないない！」

　突然のことに真っ赤になって首を振ったら「良かったー。実はあたし、アイツのことが好きなんだよね。仲良くなりたいから協力してくれない？」と頼み込まれてしまった。

　カナエは胸の奥にちりっとしたものを感じながら「いいよ」と快諾したのだった。