タチバナ

ライラック

初めての告白

　緊張しながら、「好きだよ」と告白したら、「ごめん」と、からりと笑ってフラれた。
　じゃあまた明日、と別れた。

「結果はわかっていたはずなのに、やっぱりすっごくショックだった。ドドーンって、しぶきをあげた強い波を胸に打ち付けらたみたいに、痛くて苦しくてね」

　私はその時のカナエちゃんの気持ちを思う。それだけで十分すぎる程に心が痛い。
　カナエちゃんのそばには、慰めてくれる親しい友達がいたのだろうか。もしいなかったのなら。

「ハグして慰めてあげたい」と、呟いていた。
「泉ちゃんは思った通り優しい子ね」と桜井さんが微笑んだ。

「そ、それが桜井さんの初恋だったんですか？」
　褒められ慣れていない私は、こういう時すごく焦ってしまう。

「それも、初恋、かしら」
「それも？」

『高校生の皆さん、まもなく介護実習終了の時間です。速やかに業務を終えて食堂ホールに集まってください』
「えっ、もうそんな時間？　続き聞きたいのに」

　こんなに介護実習の時間をあっという間に感じたのは初めてだ。

「じゃあ、また明日の放課後、お部屋の掃除のときに聞いてくれる？　朝の食堂は、恋バナするには人が多いでしょ」

　桜井さんがイタズラっぽくウィンクをする。
　笑顔の中に、一瞬、中学生のカナエちゃんが見えた気がした。

「ぜひ！」と私は元気よく答えた。