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ライラック
野球部君
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カナエが当時好きだった男子は野球部のエースだった。
その男子とは中学三年間同じクラスで、意識するようになったのは中二の春頃。
何がきっかけだったのか今となっては覚えていないけれど、一年以上も密かに思い続けていた。
「すごく好きだったはずなのに、もう彼の名前も覚えていないのが不思議ね」
美術部をよくサボるカナエに、ニカッと笑ってサボりの女王とあだ名をつけた野球部君。
修学旅行の時、友達の写真を撮るふりをしてこっそり隠し撮りした思い出。
三年生の夏の野球大会に文化部全員で応援に行った時、試合前のグラウンドから応援席のカナエを見つけ「よお」と手を振ってくれた時は、自分が特別な気がして舞い上がった。結局試合には負けてしまったけれど。
そうして野球部は引退し、しばらく経った秋、カナエはたまたま野球部君と二人で下校する機会に恵まれた。
「野球部君が同じクラスのアイちゃんを好きなことは知っていたの。二人、とても仲が良かったし、はたから見ててもお似合いだったわ」と桜井さんが目を細める。
アイちゃんは可愛くて性格も明るくてクラスの人気者だった。カナエも大好きな女子だった。
だれがどう見てもお似合いだった。
「それでも気持ちを伝えるには今しかないって思って、すごく勇気を出して告白したの」
「すごっ! 桜井さん、面と向かってコクったんですか? SNSとかじゃなくて?」
「まだ携帯電話なんか普及していない時代の話よ」
「あ、そっか」
「あの時は、口から心臓が飛び出そうだったわ」と、そのことを思い出してふふっと懐かしそうに笑う。
その男子とは中学三年間同じクラスで、意識するようになったのは中二の春頃。
何がきっかけだったのか今となっては覚えていないけれど、一年以上も密かに思い続けていた。
「すごく好きだったはずなのに、もう彼の名前も覚えていないのが不思議ね」
美術部をよくサボるカナエに、ニカッと笑ってサボりの女王とあだ名をつけた野球部君。
修学旅行の時、友達の写真を撮るふりをしてこっそり隠し撮りした思い出。
三年生の夏の野球大会に文化部全員で応援に行った時、試合前のグラウンドから応援席のカナエを見つけ「よお」と手を振ってくれた時は、自分が特別な気がして舞い上がった。結局試合には負けてしまったけれど。
そうして野球部は引退し、しばらく経った秋、カナエはたまたま野球部君と二人で下校する機会に恵まれた。
「野球部君が同じクラスのアイちゃんを好きなことは知っていたの。二人、とても仲が良かったし、はたから見ててもお似合いだったわ」と桜井さんが目を細める。
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