タチバナ

箕面四季

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ライラック

桜井さんの恋バナ

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「と、いうようなことが今朝ありまして」

 放課後の介護実習で桜井さんの部屋の掃除をしながらそんな報告をしたら、桜井さんが「あら、うれしい」とにっこりした。
 もちろん「なんかちょっと、可愛いくね?」のあとは省略している。

(確かに、可愛いよなぁ)
 桜井さんの笑顔を見ていると、なんだか無性に絵が描きたくなる。
 中学の頃、私は美術部だった。そして同じ中学だった橘は野球部だった。橘はその頃からモテていた。

「へえ、橘君は野球部だったのね。そして泉ちゃんは美術部かぁ」と、またキラキラする桜井さん。
 やっぱりこの人は、普通の高齢者と全然違う。

「でも橘が言うように、桜井さんって、ザ・おじいちゃんおばあちゃんみたいな人たちと違って素敵ですよね。文句ばっかな高齢者は論外としても、私のおばあちゃんとも違うって言うか。私の祖母は優しくて穏やかでまるっとしてて、まあまあ可愛いおばあちゃんですけど、その可愛いと桜井さんの可愛いは質が違うんですよね。もしかして、昔女優さんだったとかですか?」

 桜井さんは目をまん丸にして驚いて、ぷっと吹き出した。

「そんなわけないじゃない。ごくごく平凡な主婦でした」
「そうなんですか?」

「もちろんよ。でもそうね。もし私が他の人と違うように見えるとしたら……」
「見えるとしたら?」

「泉ちゃん、私の恋バナ、聞いてくれる?」と、桜井さんはいたずらっぽく微笑んだ。
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