妹に婚約者を結婚間近に奪われ(寝取られ)ました。でも奪ってくれたおかげで私はいま幸せです。

千紫万紅

文字の大きさ
上 下
71 / 72

71 正当なる王位継承者

しおりを挟む
71


 
 客室の中にまで聞こえてきた話し声と物音、その耳障りな騒音にマリアベルは目が覚める。

「なに……」
 
 空はまだ夜明け前。
 だというのに慌ただしく動き回る使用人達の様子を元侍女のマリアベルは不審に感じた。
 こんな時間に王宮の使用人が騒がしく動き回るなんてなにかおかしい、さ嫌な予感がする。
  
 だからマリアベルは自分の客室から出て、通りすがりのメイドを捕まえて訊ねた。

 そうするとクロヴィスの宿泊する客室に凶器を持った不審者が入り込んだらしいと、教えられて。 
 マリアベルはクロヴィスの宿泊する客室へと、慌てて駆け付けた。
 
「クロヴィス様、大丈夫ですか!?」

「マリアベル?」
 
 そして駆けつけたマリアベルの視界に飛び込んで来たのは、赤い血がべっとりと白いシャツに付着したクロヴィスの姿で。

「血がっ!?」
 
「あっ、これは返り血。俺のじゃないよ? 汚れるからあまり近付かない方がいい……」

 ……と言われたが。
 本当に怪我がないのかマリアベルは確認するが、その身体には傷一つ見当たらなかった。

「お怪我は、ありませんね……」
 
「だから大丈夫って言ったろ?」

 クロヴィスは心配するマリアベルを安心させるように軽く笑って見せるが、あまりにも酷い惨状が客室には広がっていて。 
 それは思わず目を背けたくなるようなもので、ここで確実になにかあったことが窺い知れた。

「『お母様、これは私のせいですか』」

「『ち、違うわ! 貴女はなにも……』」
 
「『クロヴィス様が狙われたということは私を女王にしたくない誰かの警告ですか? それとも私が持つ王位継承権が目的ですか? お母様答えて下さい』」 

「『……貴女の事を公表したことによって、この国の貴族達は貴女を我が物にしようとしているの」』

「『やはりそういうことですか……という事はこれからもクロヴィス様は狙われてしまいますよね?』」
   
「『ええそうね。貴女を狙う貴族達にとって彼は邪魔だから……ごめんなさい、こんな事になるなんて思ってなかったよ」』

 マリアベルに謝罪する女王エレノア、彼女とてこの事態は流石に想定外だった。
 クロヴィス対して嫌がらせぐらいはあるだろうと考えていたが、まさか暗殺しようとしてくるなんて。

「『クロヴィス様を、この国の貴族達から守る方法はなにかありますか?』」

「『貴女が女王になって彼を王配にすれば……』」

「『……お母様、これ仕組みました?』」
  
「『仕組んでないわよ! 私は裏工作が好きじゃないの。それに仕組んでいたら昨日みたいな交渉を貴女にしないわよ、こうやって疑われるじゃない』」


 

 ◇◇◇


 
 女王エレノアと王配シリルの間に生まれた正当なる王位継承者シャンタル王女は誘拐された末に殺害されてしまったものとされていた。
 だが突然生きていると公式に発表されて、約二十年ぶりに無事の帰国を果たした。
 
 これはそれを祝う為に開かれた夜会。

 だがそれを手放しでは喜べない者達がいる。
 それは他の王位継承者達とその親族達で、正当なる王位継承者シャンタル王女がアウラに戻った事により自分達が王位に就く可能性がほぼ無くなってしまった為である。

 そして女王エレノアと王配シリルの間に生まれた正当なる王位継承者シャンタル王女は、夜会の場に堂々と姿を見せた。
 
 女王エレノアに『王太女』として紹介されて。

「『王太女だと!?』」

「『女王が後継者をお決めになられた!』」

「『これはこれは……』」
 
 その言葉に大広間にいた貴族達は一気に騒がしくなり、シャンタル王女の隣にいるクロヴィスの姿にも貴族達の注目が集まる。
 
 ……あの男はいったい誰なのかと。
 
「俺の為に女王になるとか、マリアベルはなに考えてんの……? 絶対後で後悔するぞ」

「私は後悔しませんよ、貴方を守れるなら。でもクロヴィス様が築き上げてきたものを奪ってしまう結果になってしまいました、すいません」

「俺の事は別に気にしなくていい。王配になれば外からレオンハルトの事を支えられるしな? でも女王はわかっててマリアベルの事を公表しただろ……すごい嬉しそうな顔してるぞ」

「やっぱり、クロヴィス様もそう思います?」 

 ――そこへ。
 
「『シャンタル』」
 
 マリアベルのもう一つの名前を親しげに呼ぶ声。
 その声に振り向けば、灰を被ったような銀髪をもつ背の高い紳士の姿があって。
  
「『……お父様?』」

「『うん、会いたかった』」

 王配シリルのその姿を一目見て、マリアベルはこの人が自分の父親なんだと直ぐに理解した。
 顔は全く似てはいなかったが灰を被ったような銀髪が、自分のものと全く同じで。

「『私も、お会いしたかったです』」
  
「『それと君は確か』」 
  
「『シャンタル殿下と婚約させて頂いておりますクロヴィス・ルーホン、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございませんシリル殿下』」
 
「『昨夜は色々と大変だったね?』」

「『いえ……』」

「『そうだシャンタル、一つだけ聞かせて欲しい、君は本当に王位を必要としているのかい?』」

「『えっ……』」

「『君が王位をどうしても欲しいと言うのなら話は別だけど……王になんかなっても苦労するだけで、なに一つ良い事がないからね。私は反対だよ君が女王になるのは』」

 王配シリルは女王エレノアが、その地位のせいで苦労する姿を一番近くで見てきた。
 だから娘にはそんな苦労はさせたくないのだ。

「『お父様』」

「『それに君を女王にしたいと言っているエレノアは王族として育ったからそれを当たり前として受け入れられたけれど……君は違うだろ? なのに婚約者の為に君はそこまでするのかい?』」

「『私はそれでも大切な人を守りたい』」

「『……そうか、じゃあ後の事は私に任せて』」

「『後の事……?』」

「『他の王位継承者達と、その親族。彼らは私が黙らせておくよ』」

 他の王位継承者。
 それはつまりマリアベルの弟や妹達のことで。

「『彼らから私は奪ってしまうのですものね……』」

「『ああ、気にする事はないよ。それは元々君のものなのだから……』」


◇◇◇
次回本編最終話。
しおりを挟む
感想 628

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...