妹に婚約者を結婚間近に奪われ(寝取られ)ました。でも奪ってくれたおかげで私はいま幸せです。

千紫万紅

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70 公表の弊害

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 深夜、客室に微かな物音が響く。
 その音にクロヴィスはふと目が覚めた。

「今のは……?」

 音の出処が何故か気になって、まだ気怠い身体をのろのろと寝台から起こした。

 その時。
 
 寝台の上にいたクロヴィスへと向けて、短剣が振り下ろされた。

 気付いたクロヴィスは咄嗟に横に避ける。
 
「『チッ……避けるなよ?』」
 
 いったいなにが起きたのかとよくよく目を凝らしてみれば、今しがたまで自分が眠っていた寝台に深々と突き刺さった短剣。
 
 そして黒装束を纏い顔を隠した男の姿で。

 クロヴィスは一気に目が覚めた。
   
「『おい、これは誰の指示だ?』」

「『今から死ぬ奴には関係ないだろ?』」

 部屋に侵入した男は寝台から短刀を無理矢理引き抜き、そして再びクロヴィスへと向けて振り下ろす。
 
「もう、これだからっ……」

 振り下ろされた短剣をクロヴィスは、今度は避けるのではなく男の腕を掴み後方へ受け流した。
 そして油断した男の手から短剣を奪う。

「『え?』」
  
 それから奪った短剣を逆手に持ち替え、男の喉元目掛けて容赦なく突き刺し引き抜いた。

 途端に血飛沫が飛び散る。

 その光景に。
  
「あ、やべ……」

 これじゃ指示した人間を知る方法がない。
 ミスったなと思う一方で、これだから大国は嫌なんだとクロヴィスは溜め息を零した。

 

 ◇◇◇
 
  
  
「『あらら、おはよう?』」

 この件を聞きつけた女王エレノアが、クロヴィスの部屋まで護衛達を引き連れてやってきた。

「『俺、殺されかけたんですが? 心配するとかなにかないんですか……』」

「『でも返り討ちにしてしまってるじゃない。ネムスでも思ったけど、貴方って強いのね?』」

「『……これを指示したのは貴女では無さそうだ』」

「『ふふ、それはどうかしら? 貴方がいなくなれば、あの子を女王にするのに邪魔する人間はいなくなるもの』」
 
「『っ……』」
 
 クロヴィスの身体はビクリと揺れる。
 確かに自分を殺してしまえば、マリアベルを女王にするのに邪魔する人間はいなくなる。
 
 女王エレノアの後方には彼女の護衛騎士達、やろうと思えば今すぐにでも命令出来るだろう。

「『ふふ、嘘よウソ! 貴方を殺したら娘に嫌われる所じゃ済まないもの、普通に心配してきたの。怪我はない?』」

「『それ、一番最初に言うべきだと思いますが? それと怪我はありません、ご心配頂きありがとうございます』」

「『それはよかった! それにしても……なにこの部屋? 私はあの子の隣の部屋を、貴方に宛がうように指示したのに……』」

「『この部屋は嫌がらせじゃなかったんですか』」
 
「『あら、そんな狭量な事を私がすると思っていたの貴方……失礼しちゃうわ!』」

 この質素な部屋は女王エレノアの嫌がらせなどでは、なかったらしい。
 だったら誰がここを指示したのか。

「『それだったら、いったい誰が?』」

「『キルデリク・アブラームみたいにあの子と結婚して王家と縁を結びたい誰か、じゃないかしら? そういう貴族この国には沢山いるのよね、ほんと困ってしまうわ』」
 
「『もしかして、それわかっててマリアベルの事を発表したんですか?』」

「『……ここまで強引な手段を選ぶとは流石の私も思ってなかったのよ、ごめんなさいね?』」  

 流石に悪い事をしたと思ったのか、女王エレノアはクロヴィスに謝罪する。

「『これからどうすれば……』」

「『あの子を女王にして貴方が王配になるって言うのが一番簡単だけど? 貴方も別に王配になるの嫌じゃないでしょ?』」

 クロヴィスが王家の人間になれば、狙わる事はなくなるだろう。

「『マリアベル本人にその意思がありません』」
 
「『……あの子を女王にしてくれたらネムスへの支援をこれまで以上に強化することを約束する、それにもちろん王配は貴方。そして側室は取らなくて大丈夫なようにする。それでも?』」

「『私はマリアベルの気持ちを尊重したいんです、なりたくないと言うのに無理矢理なんて』」

「『結構な好条件を提示してると私は思うんだけどそれでも駄目なの? 貴方の国の国王なんてこの条件に飛びついて貴方を王配に据える事を許可してたけど……それにこのままだと一生命を狙われ続けるわよ?』」

「『それは……ですがやはり私は、マリアベルの気持ちを尊重したい』」

 自分の命を狙われたとしてもクロヴィスは、マリアベルの気持ちを尊重したかった。

 ――そこへ。

「な、なんですか……これ……クロヴィス様、大丈夫ですかっ!? お怪我はっ……」

 騒ぎを聞きつけたマリアベルが、凄惨な現場と化したクロヴィスの部屋へとやって来たのだった。
 
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