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66 羞恥に喘ぐ姿は
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ネムス王都のほぼ中央にある広場。
そこは普段ならば王都に住む市民達が楽しく会話を交わしたり、休息をとったり。
おもいおもいの時をのんびりと自由に過ごす、憩いの場所である。
だが今日はその様相が大きく異なっていた。
普段は静かな広場には露店が所狭しと立ち並んでいるし、普段よりも数多くの市民達で広場はごった返しいた。
「すごい、人が沢山……」
クロヴィスに連れられてやって来たマリアベルは、その人の多さに目を丸くして驚いた。
この広場にこんなに人が沢山いるのを、マリアベルは一度も見た事がない。
いつここを通りがかっても、人の姿が疎らなのが当たり前の場所だった。
「マリアベル、今日はいつもよりかなり人が多い。だからはぐれないように気を付けろよ?」
そんなマリアベルを心配して、クロヴィスは気を付けるように声を掛けた。
一応王宮から騎士を数人借りてきてマリアベルを警護して貰っているが、ここまで人が多くなってしまっているとはクロヴィスも思わかなかった。
「クロヴィス様、お気遣いありがとうございます。でもこのくらい大丈夫です」
実際このくらいの人混みなら、マリアベルにとってはなんてことはない。
侍女の仕事の一つとして市場での買い出しがあり、週に一度は平民達も訪れるような下町の市場にマリアベルは一人で買い物に来ていた。
なのでこのくらいの人混みは慣れっこである。
「……でも心配だから、マリアベルはもっと俺の近くを歩いてくれ。あと手もちゃんと繋いで」
そう言ってクロヴィスはマリアベルの手を握り、自分の方へと引き寄せた。
「心配性ですね? クロヴィス様は」
「マリアベルはもう少し自分の心配をしてくれ、頼むから。危なっかしいんだよ……」
「あら、そうですか?」
「あともうちょっと俺を頼って」
クロヴィスはマリアベルの事が心配で心配で仕方がないし、もっと自分の事を頼って欲しい。
……婚約者になったのだから。
そんな風に仲睦まじいクロヴィスとマリアベルの二人を、リリアンは後ろからじっと眺める。
オズワルドも以前はこんな風に自分を大事にしてくれていたし優しかった、なのにどうしてあんな酷い事を言うようになってしまったのか。
最初リリアンは己を責めた。
けれどよくよく考えてみると、悪いのはどう考えてもオズワルドの方だった。
……だから。
「見て見てお姉様ー! クズ野郎があそこに!」
広場の中心に設置された【さらし台】
それは地上にどかりと立てられた二本の柱に、穴の空いた長方形の板を取り付けたもので。
板には大小三つの穴が空けられており一番大きい穴には頭を、小さい二つの穴には手を差し込んで固定するもので。
わかりやすくいえば顔出し看板である。
そんな【さらし台】に今回の主役となるクズ野郎、ではなくオズワルドが生まれたままの姿で繋がれていた。
「きゃあっ!」
そんなオズワルドのあられもない姿にマリアベルは顔を覆い隠す、まさかそんな姿で晒されているなんて思ってもみなかった。
「……うわ、これは酷い」
そしてその光景にクロヴィスは苦笑いを浮かべる、ここまで酷い状態だとは想定していなかった。
ぼろ布でも纏わされて鎖に繋がれている程度だと思っていたから、マリアベルを連れて来たのに。
これならば連れて来なければ良かった。
未婚の令嬢にこの光景は刺激が強すぎるし、自分以外の男の身体なんてマリアベルに見せたくない。
「お貴族様っていっても大したことねぇな! 俺の方が立派なモンぶら下げてるぜ?」
「なあ……ちょっと悪戯してみねぇ? コイツもうお貴族様じゃねぇんだろ?」
「じゃあこそばしてやろう、誰か筆持ってきてくれよー! お貴族様で遊ぶぞー!」
広場に集まった市民達が【さらし台】に拘束されたオズワルドに、次々と悪戯を始める。
その悪戯は身体を傷付けるようなものでは決してないが、プライドの高いオズワルドにとっては非常に耐え難いもので。
【さらし台】に頭と手を拘束されていて、碌に身動きがとれないにも拘わらず。
オズワルドはジタバタと暴れまわった。
「ふふふ、あはは、なにあれ……! マヌケっ、すっごいジタバタしてる……あはは!」
その光景にリリアンは腹を抱えて笑う。
自分の事を手酷く捨てた男が羞恥に喘ぐ姿は愉快で可笑しく、言葉に言い表せないくらいに清々しい。
出来るならあそこに自分も混ざってオズワルドに悪戯してやりたいが、そんな事をしたらマリアベルに怒られそうなのでリリアンは我慢する。
「り、リリアン……! ふふ、そんなに笑ったら流石に可哀想っ……ひ、必死なのに、ふふ」
そんなリリアンに釣られるように。
マリアベルも目に涙を浮かべて笑う、必死なのを笑うのは流石に可哀想だとは思う。
だが、オズワルドのその姿がマヌケで馬鹿馬鹿しくて止めようにも笑いが止まらない。
結婚式直前になって自分を捨てたオズワルドに対して、マリアベルも思う所が多少あった。
けれど、そんな姿を見てしまってはもうなにもかもどうでもよくなった。
そんな風に楽しげに笑うマリアベルとリリアンの姿に、クロヴィスは女を怒らせたら怖いな。
……と思ったのだった。
ネムス王都のほぼ中央にある広場。
そこは普段ならば王都に住む市民達が楽しく会話を交わしたり、休息をとったり。
おもいおもいの時をのんびりと自由に過ごす、憩いの場所である。
だが今日はその様相が大きく異なっていた。
普段は静かな広場には露店が所狭しと立ち並んでいるし、普段よりも数多くの市民達で広場はごった返しいた。
「すごい、人が沢山……」
クロヴィスに連れられてやって来たマリアベルは、その人の多さに目を丸くして驚いた。
この広場にこんなに人が沢山いるのを、マリアベルは一度も見た事がない。
いつここを通りがかっても、人の姿が疎らなのが当たり前の場所だった。
「マリアベル、今日はいつもよりかなり人が多い。だからはぐれないように気を付けろよ?」
そんなマリアベルを心配して、クロヴィスは気を付けるように声を掛けた。
一応王宮から騎士を数人借りてきてマリアベルを警護して貰っているが、ここまで人が多くなってしまっているとはクロヴィスも思わかなかった。
「クロヴィス様、お気遣いありがとうございます。でもこのくらい大丈夫です」
実際このくらいの人混みなら、マリアベルにとってはなんてことはない。
侍女の仕事の一つとして市場での買い出しがあり、週に一度は平民達も訪れるような下町の市場にマリアベルは一人で買い物に来ていた。
なのでこのくらいの人混みは慣れっこである。
「……でも心配だから、マリアベルはもっと俺の近くを歩いてくれ。あと手もちゃんと繋いで」
そう言ってクロヴィスはマリアベルの手を握り、自分の方へと引き寄せた。
「心配性ですね? クロヴィス様は」
「マリアベルはもう少し自分の心配をしてくれ、頼むから。危なっかしいんだよ……」
「あら、そうですか?」
「あともうちょっと俺を頼って」
クロヴィスはマリアベルの事が心配で心配で仕方がないし、もっと自分の事を頼って欲しい。
……婚約者になったのだから。
そんな風に仲睦まじいクロヴィスとマリアベルの二人を、リリアンは後ろからじっと眺める。
オズワルドも以前はこんな風に自分を大事にしてくれていたし優しかった、なのにどうしてあんな酷い事を言うようになってしまったのか。
最初リリアンは己を責めた。
けれどよくよく考えてみると、悪いのはどう考えてもオズワルドの方だった。
……だから。
「見て見てお姉様ー! クズ野郎があそこに!」
広場の中心に設置された【さらし台】
それは地上にどかりと立てられた二本の柱に、穴の空いた長方形の板を取り付けたもので。
板には大小三つの穴が空けられており一番大きい穴には頭を、小さい二つの穴には手を差し込んで固定するもので。
わかりやすくいえば顔出し看板である。
そんな【さらし台】に今回の主役となるクズ野郎、ではなくオズワルドが生まれたままの姿で繋がれていた。
「きゃあっ!」
そんなオズワルドのあられもない姿にマリアベルは顔を覆い隠す、まさかそんな姿で晒されているなんて思ってもみなかった。
「……うわ、これは酷い」
そしてその光景にクロヴィスは苦笑いを浮かべる、ここまで酷い状態だとは想定していなかった。
ぼろ布でも纏わされて鎖に繋がれている程度だと思っていたから、マリアベルを連れて来たのに。
これならば連れて来なければ良かった。
未婚の令嬢にこの光景は刺激が強すぎるし、自分以外の男の身体なんてマリアベルに見せたくない。
「お貴族様っていっても大したことねぇな! 俺の方が立派なモンぶら下げてるぜ?」
「なあ……ちょっと悪戯してみねぇ? コイツもうお貴族様じゃねぇんだろ?」
「じゃあこそばしてやろう、誰か筆持ってきてくれよー! お貴族様で遊ぶぞー!」
広場に集まった市民達が【さらし台】に拘束されたオズワルドに、次々と悪戯を始める。
その悪戯は身体を傷付けるようなものでは決してないが、プライドの高いオズワルドにとっては非常に耐え難いもので。
【さらし台】に頭と手を拘束されていて、碌に身動きがとれないにも拘わらず。
オズワルドはジタバタと暴れまわった。
「ふふふ、あはは、なにあれ……! マヌケっ、すっごいジタバタしてる……あはは!」
その光景にリリアンは腹を抱えて笑う。
自分の事を手酷く捨てた男が羞恥に喘ぐ姿は愉快で可笑しく、言葉に言い表せないくらいに清々しい。
出来るならあそこに自分も混ざってオズワルドに悪戯してやりたいが、そんな事をしたらマリアベルに怒られそうなのでリリアンは我慢する。
「り、リリアン……! ふふ、そんなに笑ったら流石に可哀想っ……ひ、必死なのに、ふふ」
そんなリリアンに釣られるように。
マリアベルも目に涙を浮かべて笑う、必死なのを笑うのは流石に可哀想だとは思う。
だが、オズワルドのその姿がマヌケで馬鹿馬鹿しくて止めようにも笑いが止まらない。
結婚式直前になって自分を捨てたオズワルドに対して、マリアベルも思う所が多少あった。
けれど、そんな姿を見てしまってはもうなにもかもどうでもよくなった。
そんな風に楽しげに笑うマリアベルとリリアンの姿に、クロヴィスは女を怒らせたら怖いな。
……と思ったのだった。
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